「アンパンマンミュージアム行きたいねー。」
彼女なりにアピールしているのである。ではいつ行くか。11月は七五三という大イベントがあり、それが終わるまでは他のイベントは考えられなかった。ジェイジェイに相談した結果、12月3日のお遊戯会で頑張ったご褒美ということで、サチ母も誘って12月6日(日)にしようということになった。
偶然、義妹ユキちゃんのブログで、11月21日にター君一家がアンパンマンミュージアムに行ったことを知った。朝からがっつりと楽しんでいる様子が書かれてあった。時間ごとに様々なイベントがあり、ショーなど時間を合わせて参加しているようだった。ティエティエは工作イベントに参加してお父さんの面目躍如。お昼もミュージアムのある施設でイートイン。ター君はコキンちゃんの人形を買ってもらい、早速可愛がっている様子。こんなに楽しめるのだと行く前からわくわくした。
トゥットゥにも私から「12月にアンパンマンミュージアムに連れていってあげるよ。」と伝えた。ジェイジェイはカウントダウン形式で、「来週はどこ行くの?」「今週末はどこに行くの?」「明後日はどこ行くの?」「明日はどこ行くの?」とトゥットゥに聞き、とうとう「今日はどこ行くの?」となって、トゥットゥが毎回にやにやしながら
「アンパンマンミュージアム行くの。」
と言った。
★
当日、サチ母と駅で待ち合わせして東京駅から東海道線で横浜に向かった。みなとみらい線に乗り換え、新高島で下車。しばらく歩いてアンパンマンミュージアムが見えてくると私たちも心が躍った。トゥットゥがどれだけ喜んでくれるだろう。期待で胸が膨らんだ。
まず正門前で記念撮影。そしてミュージアムのチケットカウンターに並んだ。10時半、すでに大勢の子ども達とその家族で賑わっているようだった。チケットを購入した後、まずはミュージアム3階へ。エレベーターが開いて待っていたもの。それは
人、人、人、人であった。
私は呆然とした。ある程度は予想はできたが、ここまで人が多いとは。案の定トゥットゥはアンパンマンの世界を前にして喜ぶどころか、固まっていた。
(こんな大勢の人の中でどうせいっちゅうねん…)
彼女の表情はそんなことを物語っていた。
私やサチ母がこんな風になっているよ、こんな風に遊ぶんだよ、と伝えるのだが、トゥットゥは一向に乗ってこようとしない。気になるのは様々な模型にある仕掛け穴で、穴をのぞくと何かが見えるという仕掛けのようだった。そこをマイペースで覗いていくだけで、あとは特に何に感動する風でもなかった。
2階に降りると鉄火巻きのマキちゃんの寿司屋などお店屋さんのセットがあり、店員の疑似体験ができるというものだったが、他の子と狭い空間に入れられるとトゥットゥは半分パニック。
「おかーしゃ、おかーしゃ!」
と1歳児のように半泣きで叫んだ。もちろん子どもしか出入りできないバイキンマンのバイキンUFOも他の子と一緒になるとアウト。写真を撮る間もなく、すぐに外に出てきてしまった。
キッズルームでアンパンマンのミニショーがあるからと見せても、ちらと一瞥しただけで我関せず状態。黙々と部屋に置いてあったおもちゃで遊んだ。たまりかねてサチ母がトゥットゥを連れてアンパンマンとの握手の列に並んだが、握手した後のテンションを見ても特段感動した風もなく。すぐに落ちる視線が
(どうせ偽者でしょ。)
と言っていた。
なんだ、この塩対応は! 誰に似たんだ! ジェイジェイの遺伝子しか考えられなかった。幼稚園時代から「サンタクロースはいるわけない。」と信じていたというツワモノである。
1階に降りて最後は滑り台。これなら楽しめるかと思い、滑りたい子どもたいの列に並ばせたが、思った以上に高く、そして傾斜があり、滑り台の上から
「ぎゃーーーー、怖いよーー、怖いよーー」
とトゥットゥは泣き叫んでいた。
この後、アンパンマン劇場で本格的なショーを見ようと思ったが、今の時間だと立ち見になると言われた。トゥットゥがこんな具合なものだから大人たちのテンションも下がっており、
「立ってまで見たいか?」
「いいや。」
それが暗黙の了解の空気になっていた。それでも私は不二家提携のレストラン「アンパンマン&ペコズキッチン」で、アンパンマンや仲間たちが象られたランチでも食べれば、トゥットゥの機嫌は上向きになると思った。
しかしとどめのジェイジェイの一言。
「(ここのレストラン)どうせまずいんでしょ。昼は中華街行こう、中華街。」
サチ母。
「そうね、いいわね!(キャハ)」
本日のアンパンマンミュージアム体験終了~(泣)。
ユキちゃんのブログから想像したミュージアム体験とはずいぶんかけ離れたものとなった。
★
ただアンパンマンミュージアムで見せたトゥットゥが見せた彼女らしい粘りがあった。1階の滑り台で泣いた後、彼女は言った。
「トゥットゥはアンパンマンのお人形がほしいのね。」
気持ちは中華街に飛んでいるサチ母をひっぱって、トゥットゥはショッピングモールに行った。ぬいぐるみ専門店があった。私はサチ母に、大きな人形はいいですから、記念に小さな人形を一つ買ってやってくださいと伝えた。
私がせめてもの記念にとジャムおじさんのパン工場で1つ310円という高価なパンを買っている間、サチ母とトゥットゥはぬいぐるみを選んだ。
果たして選んだものは…
「『大きいお人形でもいいのよ』と言っただけど、『小さなのがいい』って言って。」
「『ウインクしているアンパンマン可愛いよ。』って勧めたんだけど、『これがいい』って言って。」
トゥットゥが手にしていたのは、約一年前、保育園の帰りに落としたアンパマンのぬいぐるみと同じものだった。
この人形は、0歳の山口帰省時、デコ母が準備してくれていた人形だった。トゥットゥはとても可愛がっていて、保育園にも持っていくほどだったのだ。あの時、私が途中でトゥットゥの手の中から落ちたことに気づいて、来た道を戻って探した。寒い冬の夕暮れだった。しかし見つからなかった。
「きっと親切な誰かが道に落ちた可哀想なアンパンマンを拾って、可愛がってくれているよ。」
そういって私は彼女を慰めた。
あれ以来トゥットゥはこの小さなぬいぐるみを思い出す度に言った。
「トゥットゥがアンパンマン落としたの。」
「アンパンマン、誰かに拾ってもらったのかなあ。」
「アンパンマン、誰かに可愛がってもらっているのかなあ。」
それと同じものが彼女の手の中に戻ってきたのだ。本当にうれしそうだった。
そしてそれ以上にちゃっかりしていた。目的のものを手にするとサチ母に言ったそうだ。
「トゥットゥはもう一つお人形ほしいのね。」
右手にはアンパンマン、左手にはアカチャンマンがしっかり握られていた(笑)
彼女らしい。全ての出来事が彼女らしい。想像したアンパンマンミュージアム体験ではなかったけれど、トゥットゥの本領発揮、ここに連れてきてよかったと思った。
★
(おまけ)
この後中華街に行き、広東料理を食べ、お土産を買い、朝の待ち合わせ駅で解散と思いきや、サチ母の
「トゥットゥにミッドタウンのイルミネーションを見せたいの!」
の一言で、六本木へ。普通身重の私のことを考えたらこんな長距離移動しないよなあ、と苦笑しつつも、サチ母のトゥットゥへの想いは私の考える「普通」を易々と超えていくのであった。嫌なら断ればいいのだしね。
「うわあ、魔法の雪だね!」
トゥットゥはアンパンマンミュージアムよりもこちらのほうが心に残ったようである。