2016年2月6日土曜日

トゥットゥ、宇宙飛行士になる

トゥットゥはスタジオアリスで1歳、2歳、と可愛い姿を撮ってもらい、十分満足していた。ただ幼い子だからと大目に見ていたが、そもそもフリフリのドレスは私の好みからは外れる上、多くのショットを撮影してもらうことで、どれを採用するかに迷ったあげくに全て採用(プリント)なんてした日には、ものすごく高額となる(L版プリントで1枚1500円)。しかもプリントしなければ電子データは残すことはできない。そして電子データの受け取りが一年後と、いろんな制約があるため、これを最後にスタジオアリスはお終いにしようと考えた。あとは入学式、七五三の七が揃えば十分だろう。

スタジオアリス撮影を最後と決めた3歳の誕生日。私には心に決めたことがあった。ディズニープリンセス三部作である。スタジオアリスはディズニーとライセンス契約をしていて、ディズニーの衣装が着られるのが一つの売りである。ただそれをプリントするごとにライセンス料1500円を取られるのは痛いのだが。

それはさておき、トゥットゥは1歳で「アラジン」のジャスミン姫、2歳で白雪姫を着ていた。ノリでコスプレだと騒いでジャスミン姫を着せたものの1歳ゆえお腹が出ていて(赤ちゃんは筋肉がないため)布袋様のようになってしまったトゥットゥ。可愛いからとお願いをして出してもらった小道具の七人の小人にまるで埋もれるようになってしまった白雪姫のトゥットゥ。どれも思い出深い。

そして今年は私の一番好きなプリンセス、知的で勇敢で美しい「美女の野獣」のベル、もしくはトゥットゥが望めば彼女の大好きな「アナと雪の女王」のエルサの衣装にしようと思った。





撮影当日。この日を楽しみにしていたサチ母と待ち合わせてスタジオアリスに着くと、まずは今回の目的でもあった七五三の三の衣装を選んだ。11月のお参り時は愚図り対策で、私としては不本意な、しかしトゥットゥとしてはお気に入りのピンクの着物を選んだのだが、今回は写真撮影のみということで、赤が可愛いとサチ母と意気投合して即決。

「ほらー。日本のお姫様だよー。赤だよー。かわいいよー!」

テンションが高いのは母親と祖母だけで、トゥットゥ本人は興味なさそうだった。

それならばと、次に彼女の大好きな「アナと雪の女王」のエルサの衣装を見ればきっとうれしくなるに違いない。ディズニー衣装コーナーに連れていった。トゥットゥの目が輝いたのを私は見逃さなかった。ほら狙いどおり!私はほくそ笑んだ。

しかし彼女が駆け寄って手に取ったのは、こともあろうに、「トイ・ストーリー」のバズ・ライトイヤーだった。

「トゥットゥはバズを着るの!」









なにーーーー!? 私の笑みは凍った。ディズニープリンセス三部作の私の夢はどうなる。もう一着ディズニーの衣装を着せるという手もあるが、プリントするたびにライセンス料がかかるのである。ディズニー衣装は一着で抑えたい。

「トゥットゥ、ほら、トゥットゥの好きなエルサもあるよ! ほら、そういえばこの前シンデレラの水色のドレスがきれいだって言ってたじゃない。シンデレラだってあるよ!!」

私は必死で彼女の説得にかかった。しかし私が何かを言うたびに

「トゥットゥはバズを着るの!」

と型を押したような答えしかしなかった。





バズが好きなのはクリスマスでわかった。「トイ・ストーリー」も見たことがないのに、なぜ好きなのかもだいたい想像がつく。

秋頃だろうか。トゥットゥに将来何になりたいかと聞くようになった。「はやぶさの車掌さん」と答えるのと同じくらいの頻度で

「うちゅうひこうし」

と答えるようになった。小さな女の子によくあるケーキ屋とか花屋とか保育園の先生とかお嫁さんじゃなくて? きっと星空やら宇宙について保育園の先生からいろいろ聞くうちに、宇宙に行く人を宇宙飛行士と教えてもらったからだろう。私やジェイジェイの口からは一度も「宇宙飛行士」という言葉は教えたことはなかった。

その頃からトゥットゥは保育園の絵本コーナーで「宇宙のなりたち」とか「夏の星空」とか「宇宙飛行士の秘密」とか、宇宙の写真がふんだんに使われた本に興味を示した。そして何度も借りて帰り、ガス星雲などを見るたびに「これはなに?」と聞いた。私は彼女の宇宙好きは、女の子特有のキラキラ好きからきているのだろうと思っていた。

11月になってクリスマスプレゼントに何が欲しいかと聞くと、「メルちゃんの救急車」という答えにぶれはなかったが、何度かその質問の際に宇宙を思い出すときまってこう答えた。

「うちゅうをてらすかいちゅうでんとうがほしい」

宇宙を照らす懐中電灯? 

彼女は宇宙に関しては、女の子の感性で好きなのではなく、本人なりの別の理由なのだと思った。

そして同じ頃、保育園には次のような子たちがいた。バズが描かれた洋服を着る子。バズのループタオルを持っている子、保育園にバズの玩具を持ってくる子。彼女の宇宙飛行士のイメージはこうして固まったに違いない。





バズ・ライトイヤーの衣装を着ると言った彼女は一歩も引かなかった。説得不能。ジェイジェイは「面白いことになったじゃん!」と言って笑っていた。私もサチ母も顔を見合わせてため息をついた。そして諦めた。

丁度トゥットゥが着る100cmのバズ衣装は前の撮影の男の子が着ていたようだった。入れ違いで借りることになった。まず七五三の衣装で撮影するために、着物でスタンバイ。その時バズの衣装を着て目の前に現れたのは…

「あー、Rくん!」

先にバズの衣装を着ていたのは紛れもない、同じ2月生まれの仲良しのRくんだった。さすが下町地元。こういう出会いがあるのだ! 私は次にトゥットゥがその衣装を着る旨を話した。Rくんのお母さんは大笑いした。さすがトゥットゥちゃんと。

Rくんのバズ撮影が終り、トゥットゥの七五三撮影が終り、いよいよトゥットゥ、バズに変身して撮影場所へ。トイ・ストーリーのキャラクターたちとの合成写真を撮るためグリーンバックでポーズを決めて撮影。拳を握り締めて前腕を見せるポーズや腰に手を当てるポーズ。おおよそ女の子らしいとは言えなかったが、トゥットゥはうれしそうにキめていた。

きっと彼女なりに宇宙飛行士になれた瞬間だったのだろう。





蛇足ではあるが、結局、その後、ダメ押しでエルサの衣装も着させた。メイク室ではおかっぱ頭をサイドに編み込み、更に付け毛をつけてもらい、髪に氷の花をあしらい、口紅までつけてもらい、私も想像していなかったような美しくかわいらしい姿となった。彼女も着物とは違って自分がエルサのように変身することに興味を持ったようだった。ドレスの長い裾を自分で持つといって聞かず、気分はすっかりエルサだったのだろう。

少し予定より高くつくことになってしまったが、トゥットゥの宇宙飛行士の望みも叶い、私のディズニープリンセス三部作の望みも叶い、楽しい撮影会となった。次のトゥットゥの撮影はしばらく後の入学式前かな…と思いきや、お腹の子(第二子)のお宮参りになりそうである。スタジオアリスさん、ありがとう。そしてまたよろしく。