27日(土)、東京ステーションギャラリーのモランディ展へ行った。5本の指に入る好きな画家だ。
絵が好きな私は中学時代から自分の住む田舎町から大きな街に遊びに行く度に、美術館や文具店に行き、ポストカードを買い求めた。一番多い絵はセザンヌだった。大学では他所の学部の美術の授業に潜った。その授業でセザンヌは真の革新者だと知った。私の審美眼に狂いはなかったと嬉しくなった。
初めての海外旅行のイタリアではアッシジに行った。大地震で聖フランチェスコ聖堂が崩れる前だ。私は教会の壁面で躍動するジョットの絵に心奪われた。ウフィツィ美術館で見た明るくも影のあるピエロ・デラ・フランチェスカに感銘を受けた。数あるポストカードの中で「ウルビーノ公夫妻の肖像」を買って帰り、今なお家に飾ってある。
日本でも美術館によく通ったが、小さなギャラリーで出会った音楽のようなリズムのある有元利夫も気に入った。いつか彼のリトグラフを買うのが私のささやかな目標だ。そして社会人になって「芸術新潮」の特集でモランディを知った。なんだ、この哲学的な画面は!?一瞬にして興味を惹きつけられた。
とにかくモランディに関しては生で一度だけ渋谷のBunkamura(デュッセルドルフのK20州立美術館展だったか)で1枚だけ見た。その静謐な画面から溢れる圧倒的な静物の存在感。打ちのめされた。ああ、見たい。
この度、どうしても一人でモランディをじっくりと見たかったため、ジェイジェイに一人だけの時間をもらった。ぜーんぶモランディ。あの時の一枚のインパクトというわけにはいかないが、時系列に思索が深められていく様子がわかった大変興味深かった。一見ただの静物画なのだが、この世の実体、物体としての存在を問うている。空間との境界線が溶けていく、自分も溶けていく。そんな感覚に囚われた。
そしてこの時知ったのだが、モランディは、おなじイタリアのジョット、ピエロ・デラ・フランチェスカから、そしてセザンヌから影響を受けたということだった。有元利夫が卒業制作ピエロ・デラ・フランチェスカを題材にしたことは知っていたのだが、モランディも影響を受けたとは! 納得した。好きな系譜は同じなのだ。
絵の観覧時、翌日に控えていたお雛様パーティのことも、そしてお留守番をさせてちるトゥットゥのこともまったく忘れていた。本当に静かな、自分を取り戻す時間だった。
蛇足になるが、本当のことを言えば、私の伴侶となる人には、絵画、音楽、文学など、人文系教養の高い、その手の話が面白いことを条件として求めていた。実際に結婚したジェイジェイはそれらを鑑賞する力はあっても、話題として昇華する力はなかった。それは単純にその必要性やそれによる面白みを感じてないからであろう。私はたまにそういった話題に焦がれて胸が疼くこともあるが、幼いトゥットゥを中心とした日常生活に人文系教養は屁ほども関係なく(失礼)、それよりも家族を共同運営するにあたり、意見をすり合わせていく力のほうがはるかに重要だった。ジェイジェイにはそれがあった。その上家族思いだった。これ以上何を望む。彼は戦国時代と戦中戦後の面白教養だけで十分(笑)、私の世界を侵食しない、案外住み分けできていいのかもしれない。
そして最後のステーションギャラリーのミュージアムショップで現実に戻り、トゥットゥとター君のために新幹線のポストカードを買った。東京駅構内で明日のゲストへのお土産を買った。
これで明日の怒涛のパーティ準備のためのパワーがチャージできた!
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今年のひな祭りパーティはトゥットゥ、ジャッキー、ジェイジェイ、サチ母、妹のヤマナちゃん、弟のティエティエ、義妹のユキちゃん、甥っ子のター君、総勢8名の参加者である。本音を言うと別に家族でこじんまりしてもいいと思っていたのだが、予想外に人数が膨れたのには訳があった。
経緯はこうだ。サチ母がトゥットゥに会う口実が欲しいだろうからと、去年と同じくお雛様パーティを開いて呼ぶことに決めた。
ヤマナちゃんに関しては、実は2月のあの写真撮影会の後に行われたトゥットゥ誕生会に参加してくれていた。従って当初今回はジェイジェイの妹のエミィさんを呼ぶことにしていた。それを見越してお雛様ケーキも5号(4〜5人前)を注文した。ところが大企業に勤めるエミィさんは東京マラソンのスポンサー企業の一員として沿道にユニフォームを着て応援に行く予定がすでに入っているということだった。ああ、残念。
急遽、お雛様プレゼントを渡したいというユキちゃんの話を思い出し、近くに住む弟家族、そして弟を呼ぶなら、妹のヤマナちゃんもということになったのである。
夕方サチ母からパーティ参加者の確認の連絡が入った。エミィさんを呼んでジェイジェイ家で揃うはずが、図らずもジャッキー一家で固められてしまったことを詫びた。サチ母は大勢の参加を喜んでくれた。どうやら私が料理を用意すると言ったにもかかわらず、料理の持ち寄りをしようと材料の量の確認をしたかったようである。ありがたいことである。
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28日(日)、前日の美術館で元気になった私は午前中から精力的にお昼のパーティの準備をした。酢飯を作り(ちらし寿司の素を使っただけだが…)、マカロニサラダを作った。酢飯の上に乗せる菜の花を茹でた。そしてちらし寿司のネタ(鯛、カニ、イクラ、エビ、卵)を美味しい魚屋まで仕入れに行った。予約したケーキを受け取りにいった。蛤を買い忘れて、わかめの味噌汁になってしまったのはご愛敬ということで…。
一方サチ母はチキンのドラムスティック、美味しいフルーツトマトのサラダ、セロリの炒め物、蕪の煮物を作ってきてくれた。トゥットゥとター君には地元パティスリーのお菓子の詰め合わせをプレゼントに。ジェイジェイは身銭を削って、サチ母の好きなシャンパン、自分と弟のためのビール、私とユキちゃんのためのノンアルコールを買ってきてくれた。それらを置くと一気にテーブルが華やいだ。
12時過ぎにティエティエ家族がきた。トゥットゥへと、リサ&ガスパールの袋に入ったチョコレート掛けの雛あられをくれた。私には神楽坂で買った手ぬぐいのお土産。トゥットゥは手ぬぐいをいろいろ体に巻きつけて「ドレス!」と行って遊んだ。仮面ライダーゴーストとかバズになると言っているわりには、このあたりは綺麗な布が大好きな女の子なんだなあと思う。ちなみに私も幼い頃はガッチャマンが好きで、昔からテキスタイルパターンも好きである。これは血か。
12時半頃、ヤマナちゃんがやってきた。トゥットゥとター君には芦屋アンリ・シャルパンティエの美しい箱に入った桜クッキーをくれた。皆への差し入れに銀座資生堂パーラーのクッキーを。グルメで美味しいものをたくさん知っているサチ母が「やっぱり資生堂パーラーは美味しいわ!」と大絶賛していた。ヤマナちゃんは子供の扱いがうまく、やはりこの日もトゥットゥとター君の強力な遊び相手となった。私だったら10分で根を上げているところだ。ありがとう、ヤマナちゃん。
13時頃からお酒と食事を囲んで賑やかに宴会は進み、16時頃にお雛様ケーキを食べた。16時頃解散と皆には伝えていたが、結局ティエティエ家族は19時頃までいた。ター君はトゥットゥのプラレールで遊んでいたのだが、なんでも唯一持っていない東海道線がこの家にあるとあって、それが欲しくて欲しくてたまらない様子だった。プラレールを箱に入れてお片づけするのだが、帰ろうとするとその箱から東海道線出して自分のリュックサックに入れて持ち去ろうとした。ユキちゃんが「こらこら、きちんとしまうの!」と促すと、再び箱に入れるのだが、帰ろうとするとまた東海道線を持ち出し…。これには笑ってしまった。
サチ母とヤマナちゃんは帰る方向が一緒だからと、20時過ぎに一緒に帰った。
ホステスとして忙しい一日だったが、昨日の美術館とセットだから頑張れた。