ただ両方ともトゥットゥは
「いっしょにあそんでたのしかった。」
と言うので、一緒に遊ぶってどういう認識なんだろうと不思議に思ってしまう。
また保育園から帰る時、いつも一緒の同じクラスのY君は3月生まれ、月齢はトゥットゥより1ヵ月遅れだ。いつも二人で追いかけっこをしながらきゃっきゃと楽しげな声をあげて走って帰る。玩具一緒にで遊ぶという感覚はなくとも、互いに追い掛け回すという遊びは楽しめるようである。しかし帰り道は大通りもあるため、いつも「こらー、手を放さんとき! 手を繋がないとダメって言っとるやろ!」と手をひっぱり、交差点や曲がり角では「こらこらこら、そこそこ、ストーップ! 自転車くる、車くる!! 死ぬでー!」と、関西出身のY君お母さんと関西弁で大声を上げていることになるのだが。
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大学時代の友人がトゥットゥと同い年の女の子Aちゃんを連れて遊びにきてくれた。9月生まれのAちゃんを一目見ると落ち着いた佇まいに驚いた。母親自身が幼い頃に着たというファミリアの紺のコート、下には白いブラウスにワンピース、白いレース付きのハイソックス。なんと美しいお出かけ姿であろうか。
それに引き換えトゥットゥ。あまりにカジュアルすぎる…。お客様が来るので、トゥットゥにきれい目な格好をさせようと目論んでいたのだが、朝イチでジェイジェイに頼んでたんすを開けてもらい、自分でコーディネートして服を着てしまっていた。ハートの刺繍のある白いトレーナーに灰色のスカート、ダイダイ染めのレギンス。…元気があってよろしい。彼女の自主性を重んじよう。
女の子と二人きりで遊ぶのはトゥットゥがお話がほぼ不自由なくできるようになって初めてではないだろうか。もともと人見知り傾向の強いトゥットゥ、玩具は貸してあげるものの、自分勝手に遊ぶのではないかと想像していた。
ところがこの家の玩具の主とあって、ホステスとして振舞っていたことに驚いた。
「ねえねえ、これであそんでもいいよ。」
「いっしょにプラレールであそぼうよ。」
「こうやってあそぶんだよ。」
しかしよく観察すると、それはAちゃんがよくトゥットゥの話を聞いてくれているから成り立っている光景であった。トゥットゥに手渡されたものに興味を持とうとしてくれている。しかしその場に慣れてくると、Aちゃんは控えめにしかしきちんと自己主張をした。
「わたしはこれであそびたい。」
さすが9月生まれ、一人称が私である。最初はトゥットゥに面と向かって言っていたが、要求が通らないとお母さんに直訴しにきた。さすが勘所がわかっていると感心した。
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滞在も終盤になり、動画を見せる友人に許可を取って「仲良く見なさいね」と言って子供たちにタブレットを渡した。さて「仲良く」とは言ったものの、どうやるのだろうか。
案の上、Aちゃんは「アナと雪の女王」、トゥットゥは「機関車トーマス」が見たいと言って、二人とも半泣きで私達母親に訴えた。タブレットの奪い合いをしないところがすごいと思った。
トゥットゥの場合、彼女のボーイフレンドと欲しいものがかぶると、半泣き顔で奪い合いをすることが多い。親が声をかけると彼女のボーイフレンドはしぶしぶだがトゥットゥに譲ってくれる。それは親の教育(レディファースト)の賜物なのだろう。しかしそんな彼らも男の子同士になると容赦はしない。壮絶な奪い合いを繰り広げ、親が割って入ったとしても互いに大泣きして自己主張をし続けるのを見たことがある。これが性差なのだ。
私は提案した。
「じゃあ、じゅんばんこで見よう。最初はトゥットゥの『トーマス』、次にAちゃんの『アナと雪の女王』」
トゥットゥの順番を最初にしたのは、彼女がはりきって「トーマスがおもしろいんだよ。」とAちゃんに紹介して見せようとしていたため、その心意気をつぶさないようにしたためだ。そしてトゥットゥのほうが幼いため、お客さんだと言って相手の要求を通してしまうと拗ねて後後面倒になるため、少しお姉さんのAちゃんにガマンしてもらおうと思ってのことだった。
作戦は功を奏し、最初に彼女の好きなトーマスの「事故は起こるさ~♪」を見た(シュールな歌だ)。Aちゃんは黙って一緒に見てくれていた。次に『アナと雪の女王』を見せた。そうして私たち親はお茶を飲みながらおしゃべり。トゥットゥはタブレットの操作を知っているので、しばらく放っておいた。
そして10分後、トゥットゥとAちゃんの部屋をのぞくと、二人ビーズクッションに仲良く寝そべって、卵型玩具の動画を見ていた。本当に二人とも愛らしかった。
人間関係はラリーと同じで、下手同士がやると続かない。片方が上手であればそれにひっぱられて下手なりにパフォーマンスが上がるものだ。人見知りだったはずのトゥットゥがホスピタリティの発揮したことに感心した日であったが、実はそれに乗ってあげるAちゃんの余裕あってこそだと思った。
「いっしょにあそんでたのしかった。」
Aちゃんが帰るとトゥットゥはそう言った。今度こそ本当に一緒に遊んだことになる。Aちゃん、本当にありがとう。
トゥットゥはAちゃんの名前を覚えることができず、さいごまで「あのひと」呼ばわりだったのには苦笑せざるをえなかったのだが。名前を覚えて、また一緒に遊べるといいね。