2016年4月25日月曜日

前置胎盤2

前置胎盤1の続き)3月にある程度入院準備をしていたつもりであったが、いざ長期入院となると、足りない準備はたくさんあった。なにせ入院から帰ってくるときは赤ちゃんと一緒である上に、6月上旬、もう夏なのである。約1週間でそれを見越した準備となると、てんてこ舞いである。

4月19日(火)から24日(日)で行ったことといえば…

<会社>
・4月末終了予定の仕事を1週間前倒しにすること
・休職手続きを行うこと
・お世話になっている方への挨拶や昼食会参加

<家>
・できるだけ秋冬の服や寝具のクリーニング準備を行っておくこと
・ジェイジェイとサチ母への家事引き継ぎを行うこと
・日用品のスペアを買い足しておくこと(サチ母への配慮)
・留守中の食費、日用品などのお金の準備

<トゥットゥ>
・保育園へ事情を話すこと
・保育園通いのローテーションを考えること
 (1週間のうち東京の家で過ごす曜日、千葉のサチ母で過ごす曜日)
・トゥットゥの夏物の服の準備
・千葉行き用にiPadにトゥットゥお気に入りのブルーレイ作品をダウンロード

<赤ちゃん>
・オムツ、哺乳瓶、ボディソープ、ミルクなどの帰宅直後の日用品の準備
・3月に準備したもの(寝具、洋服、タオル・ガーゼ類)の再点検

<自身>
・入院用グッズや服の準備
・Wi-Fiレンタル手続き
 (スマフォを持っていないため、テザリングできず)
・入院用のKindle(本)の準備
・入院費の準備




準備だけではない。家族とのしばしお別れの儀式も必要だった。

管理入院の診断が下された直後から、トゥットゥには毎日言い続けた。

「お母さんは来週から病院に入院するんだよ。おうちにいなくなるよ。トゥットゥはお父さんとおばあちゃんとお留守番だよ。できる?」

ふた通りの反応があった。

一つ目
「なんで?」
「お腹の赤ちゃんをお外に出してくるよ。お母さんが家に帰ってくるときは赤ちゃんと一緒だよ。」
「わかった!」

二つ目
「ほかにだれがくる?」
「サチおばあちゃんがいるときはエミィちゃんとヤマナちゃんがくるよ。もう少し先になったら山口のおばあちゃんがくるよ。ターくんも遊びにきてくれるよ。」
「たのしみ!」

そう答える3歳の彼女に不安感や悲壮感はどこにもない。それは救いであったが、私がいなくなることが本当にわかっているのだろうか心配でもあった。後で荒れないだろうか。

23日(土)には家族3人で近所の神社に行った。どうか母子ともに無事に家に帰ってこれますように。その足でカフェでお茶でもしようかと思ったが、セブンイレブンでアイスクリームを買って、軒先のベンチで3人で座って食べた。我が家らしいといえば我が家らしい、あまりお金を使わない休日の過ごし方(笑)。この日の晩、ジェイジェイが壮行会を開いてくれて、美味しいお肉を食べに連れていってくれた。ジェイジェイの優しさが身にしみた。

24日(日)最後の晩、トゥットゥはなかなか寝ようとしなかった。寝室で寝かしつけをしていると、彼女は猫のように私の鼻先に顔をつけては

「おかあさん、だいすき。」

を言い続けた。やはりわかっているのだ。涙が出そうになった。




25日(月)9時からの健診。24日(日)から引き継ぎのために来てくれていたサチ母に送り出されてタクシーで病院に向かう。ベテラン先生は前回と同じく緊急手術のようで、健診スタートは11時となる。もう覚悟は決まっている。遅くなることは構わない。分娩を扱う産科医には頭の下がる思いがした。そして、前回の予告と違わずそのまま入院となった。

一人で入院手続きをする予定であったが、産科の担当医から前置胎盤による予定帝王切開となるため、できるだけ早く家族に説明がしたいと言われる。早速お昼過ぎにサチ母に来てもらった。申し訳ない…。

かいつまんで医師の説明をまとめると

■入院診療の目的
辺縁前置胎盤により出血(警告出血)があった場合、胎盤から大量出血になる恐れあり。また切迫早産となる恐れもあり。その場合、母子ともに危険な状態になるため管理入院を行うというもの。

■手術
36週~37週に予定帝王切開を行う。

帝王切開をした場合は1年間は避妊が必要。次回出産する場合も帝王切開となる。安全に帝王切開できるのは3回までが望ましい。

私の場合、辺縁前置胎盤、且つ、背中側に胎盤がついているため、エコーでもMRIでも胎盤の癒着具合が正確にわからない。そのため開腹して確認する必要があり、縦に切開を行う。癒着具合(剥離が難しい)によっては術後、子宮からの出血が止まらない場合がある。その場合は輸血を行う。最悪の場合は子宮摘出となる。

出産後の子宮収縮により出血は収まる仕組みだが、正常位置の胎盤に比べ、低置は収縮度合いが小さいため、子宮からの出血が止まらない場合がある。その場合は輸血を行う。最悪の場合は子宮摘出となる。

子宮摘出した場合、二度と出産ができない。卵巣は残るため、女性ホルモンは出続ける。よっていきなり閉経のようになることはない。


■手術中の身体拘束
手術中は麻酔のため力が抜けるため、手足を手術台に固定する。

■抗菌薬使用
感染症予防のため、術前から抗生物質の点滴を行う。アレルギー症状が出る場合もある。

■輸血
手術中、大量出血があった場合、赤十字から提供される血液を利用する。帝王切開の場合、羊水含めて3Lが目安(それを超えると輸血)。

基本的にウイルス感染(例えばB型肝炎やHIV)していないかチェックを行った血液を利用するが、ウイルス反応が出るのが約2ヶ月かかるため、本当に稀にそれをすり抜けた血液が混じることもある。

そのため輸血を行った場合、2~3ヶ月後にウイルス性感染症のチェックを行う。

■血液製剤の使用
帝王切開術後は血液が凝固しやすく、播種性血管内凝固症候群(血液を溶かす、固まるのバランスが崩れる)と判断された場合、血栓ができないように血液凝固を阻止する物質を投与する。

こちらは血液製剤のため、ウイルス感染については輸血と同様のリスクあり。
そのため輸血を行った場合、2~3ヶ月後にウイルス性感染症のチェックを行う。

また血液が凝固しやすいため、エコノミー症候群にならないように術後から積極的に歩いてもらう。鎮痛剤を処方する。


■自己血輸血
輸血のための一つの手段。自分の血をプールしておく。血液は1ヶ月しかもたないため、手術日3週間前あたりから、貧血具合を見て、350mlを最大3回程度取得。

自己血のメリットは感染症の心配がないこと。
デメリットは量を確保できないこと。また自己血とはいえ、血液凝固防止剤は使うためアレルギー症状が出る場合もある。

貧血の場合は入院中に鉄剤を処方する。


こう書くとなにやら死地に赴く兵士のような気分になるが、なんてことはない。帝王切開はいまや5人に1人の時代だ前置胎盤は珍しいようだが、すでに出産ケースは存在する。医療は常に最悪を想定しなければならないことはわかっている。きっとうまくいく。

入院前に家族3人で訪れた神社で安産を願っておみくじを引いた。

「第31番 吉 ながいあいだの苦しみも得が来ると自然に去り、春の花の咲くようにすこしずつよくなって行く運です。安心して事にあたることです。」

そしてお産。

「安産で男の子でしょう。」

あれだけ願って腹部エコーでわからなかった性別であったが、この管理入院初日、手術説明をしてくれた女性担当医の検査であっけなくわかった。

「あはー、ほら、これ玉袋。男の子ちゃんでーす。」

ここまでくるのにいろんなドラマがあったもんだなあ。

この後の帝王切開についての記事はこちら