2016年4月27日水曜日

嫉妬の準備

一度も見せたことのない「トイ・ストーリー」を、なぜかトゥットゥは知っていて(おそらく出処は保育園の男の子の友達だろうが)、スタジオアリスの3歳の記念写真ではバズ・ライトイヤーのコスプレをすると言って聞かず、私を始め、ジェイジェイ、サチ母を呆れさせた。

それにより彼女の好きという熱意は私たちに伝わり、3月頃、サチ母は孫可愛さあまり、クリスマスの「トイ・ストーリー」ウッディ、バズの人形に引き続き、ジェシーの人形をプレゼントし、


私は「トイ・ストーリー」のブルーレイディスクを与えた。


それ以来、トゥットゥは保育園に順番に人形を連れていき、ブルーレイを手にいれてからは、ほぼ毎日保育園から帰ってきては1時間半近くの映画を見た。

これだけ映画を見えばセリフも覚えるのであろう。トゥットゥは無邪気にバズの

「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」

というセリフをなぜかしゃくれ顎をしながら言い(顎が立派なバズの真似か?)、飛び立つ真似をした。

台詞を言うだけには止まらなかった。台詞がわかるということはストーリーを追える力がある程度あるということだ。彼女はあらゆるシーンの説明を求めた。それにより3歳程度の知能では、ストーリーの運び方によっては、何が理解できて何が理解できないかもわかり、興味深く彼女の質問を聞いた。

「どうして緑のおじさんたち(コンバット)はプレゼントを見にいったの。」
「どうしてスリンキーはポテトヘッドに『残念だったな、色男』って言ったの。」
「どうしてバズはヘルメットを外すと息ができなくなったの。」
「どうしてウッディはバズを窓から落としたの。」
「どうしてウッディはアンディの車に置いていかれたの。」
「どうしてアンディとバズは意地悪なお兄ちゃん(シド)のおうちにいるの。」
「どうしてバズはお姉ちゃん(シドの妹)とおままごとをしているの。」
「どうしてバズは階段から落ちちゃったの。」
「どうしてちくちくのお人形(シドが改造したグロテスクな人形)はバズの腕を治してくれたの。」
「どうしておもちゃのみんなはウッディとバズにいじわるするの。」

以上が3月半ばにブルーレイディスクを見るようになってから、いつも聞いてくる代表的な質問である。『色男』なんて概念が難しすぎるだろうに! わからなくてもいいから、母親が一生懸命答えてくれたということのほうが重要なのかもしれないと思い、私は聞かれるたびに手を抜かずに説明をした。

その中でもトゥットゥが圧倒的に多く聞いてきた質問があった。




「どうしてウッディはバズを窓から落としたの。」

この質問である。

正確に言うとこのシーンは事故である。ウッディはバズを窓から落としたわけではない。ウッディは、外食をするのに一つだけおもちゃを持って行っていいと言われたアンディが自分を選んでくれないのではないかという不安を抱いた。そこで悪知恵を働かせバズを机と壁の隙間に落として、アンディが簡単に見つけられないようにし、自分が外食に連れていってもらおうと目論んだのだ。ところが思った以上に大事になり、バズが二階の窓から落ちてしまう形となったのである。

トゥットゥは、ウッディがバズを窓から落とす、つまりウッディがバズをはめようとしたことは把握することができた。これは素晴らしいことである。ただどうしてそんなことをしたのかがわからなかった。

今までアンディの寵愛を一身に受けていたウッディ。それがバズの登場によってアンディの関心を奪われてしまった。なんであいつだけ! 悔しい、悲しい、あんなやついなくなればいい。そんな気持ちがあったことは間違いない。それをトゥットゥに説明した。

「うーん、端的にいうと『嫉妬』という気持ちなんだけどね。」
「しっと?」
「わかった?」
「わかんない。」

トゥットゥは今、私たち両親、祖父母、叔父、叔母という家族から一身に愛情を受けている。彼女が見ている世界では、保育園を除いて、何をおいても彼女が一番として扱われる。わからないのは無理もない。

「トゥットゥ、あなたの弟か妹がこの家にやってきたらわかる感情だよ。この感情を乗り越えることで人としての幅が広がるんだよ。」

私は心の中でつぶやいた。




4月。後日談。やはりトゥットゥは、相変わらず何度も「トイ・ストーリー」のシーンの意味を聞いてくる。

「どうしてウッディはバズを窓から落としたの。」

また同じ説明するか。そう構えたときだった。

「『嫉妬』って言ってね。」
「しっと! そうそう、ウッディは『あんなやつ、いなくなっちゃえ。』っておもって、バズをおとしちゃったんだよね!」

…わかってんじゃん。お姉さんになる準備できているんだ、この子。マイナスの意味で(苦笑)

トゥットゥはサチ母からもらった人形ジェシーが出てくるお話が見たいと私に懇願し、私は4月半ばには「トイ・ストーリー2」のブルーレイを手に入れた。少しでも赤ちゃんが生まれてくることへのトゥットゥのストレスを緩和できればと思い、甘やかすことにした。



私の4月25日からの管理入院にあたって、千葉のおばあちゃんの家にお気に入りの「トイ・ストーリー」「トイ・ストーリー2」が見られるように、トゥットゥ専用のiPadのローカルにこの2作品をダウンロードした。これでいつでもどこでもウッディとバズに会えるよという親心だった。

今日、病院からテレビ電話をした。彼女はどこかよそよそしい。会話が進まない。ジェイジェイが言った。

「あ、今『トイ・ストーリー』見てる最中だから、早く続きが見たくて仕方ないみたい。」

私、トイ・ストーリーに負けたのか? 複雑。