2016年6月16日木曜日

帝王切開1(前夜)

5月下旬某日。私の帝王切開手術が行われ、無事男の子が生まれた。現在は退院して育児に勤しんでいる。これはその時を思い出して記録したものである。(Part1)

予定帝王切開の日が迫ってきた。今まで恐怖で考えないようにしてきたが、やはり手術リスクはあり得るわけで、直前になって「帝王切開」「前置胎盤」というキーワードと共に色々とインターネットで調べてしまった。

出血多量
子宮全摘出
羊水塞栓症
播種性血管内凝固症候群
輸血
血液製剤
感染症

これを全て理解した後、私はある事柄をメモ帳に書きとめ始めた。

諸々の解約手続きの依頼、そのために必要なIDとパスワードの列記。私が亡くなった場合、知らせて欲しい人。子が無事生まれた場合は、子供のいないエミィさんのところに養子に出してもいいこと。ただしトゥットゥはジェイジェイの手元で育てて欲しいこと。できれば再婚はしないで欲しいが、トゥットゥを大切にしてくれる人ならOKであること。そしてジェイジェイへの感謝の言葉。

おい、これって遺言じゃないの。縁起でもない。しかし死を感じたのは確かである。調べれば調べるほど、「死んでしまう。メモ帳に書き残さなければ!」と気負いと憂鬱が同時に訪れて複雑な気持ちになってしまった。

そんな自分の性格が引き起こす感情を予見してか、産後の世話に来てくれる予定だったデコ母に早めに上京してもらっていた。手術2日前にお見舞いに来てもらい、私の元気な姿を見てもらった。調べた最悪ケースをデコ母に説明しながら、冗談で私が

「だから、これが最後かもしれないでしょ。」

と言うと、感情豊かで影響されやすいデコ母は

「まさかジャッキーちゃんの体にメスが入ることになるなんて! 本当に心配になってきた。」

と青い顔をして言った。ここは普通「大丈夫よぅ」と笑い飛ばすべきではないか? さすがデコ母。なんせ我が実家は皆健康で誰も体にメスをいれると云う外科手術をしたことがないのだ(あ、ティエティエが中学生時代に親指の骨接でやったか)。私が外科手術切り込み隊長ということか。なんだか逆に笑いが起きてしまった。

そしてそのまま手術前日となった。





予定帝王切開ということで、前日から入念な準備が行われる。手術同意書は入院時にサインしたのでここでは説明を省く。

まず午前中に採血。小さな小指くらいの試験管に8本くらい血を取っただろうか。1か月かけて準備した自分の血液(貯血)に比べればどうってことない量であるが、今までで一番一度の血液検査で取られた量が多かった。

その後しばらくして可愛い女性の主治医がやってきた。血液検査の結果により明日手術ができますよというお知らせだった。

「どうしたんですか〜。元気ないですよ〜?」
「…さすがに緊張してきました。空元気でも『ウェ〜イ』みたいな感じの方がいいですかね。」
「あははは。そりゃもう! だって明日赤ちゃんに会えるんですよ!」

そうか、肝心なことを忘れていた。それがメインイベントなのだ。すっかり外科手術に心を絡めとられていた。そこに気持ちを集中すればワクワクの方が勝るはずである。いっそ予定帝王切開ではなく、緊急帝王切開であれよあれよという間に赤ちゃんに会えるという方が良かったのかもしれない。

そんな愚痴めいた事を思いながらも、彼女の登場により私の気持ちがほぐれたのは確かだ。





気持ちを新たに午後から予定されたいた手術の準備。赤ちゃんに会えるという気持ちに切り替えると手術に前向きになってきた。好奇心が出てきて、様々なことを観察し、質問も行う。いつもの私に戻ってきたようだ。

午後から恥骨あたりの剃毛を助産師さんに行ってもらう。
「どうして剃毛するんですか?」
「閉腹の縫合時に毛を巻き込まないためです。」
前置胎盤のため処置を早くするために縦切りをするとは聞いていたが、恥骨あたりまで切るのだと理解した。

夕方に麻酔同意書のサイン。スラっとした優しい雰囲気の女医がやってきた。脊髄麻酔について説明を受ける。
「リスクとして頭痛、アレルギー、注射時に神経を触ることで起きる神経損傷があります。」
「神経損傷してしまったらどうなるんですか?」
「神経に触るとビリっとしますのですぐに教えてください。損傷しないよう刺し直します。」
触るとどうなるかの答えにはなっていなかったが、少しくらいの損傷であれば傷と同じで治るのだろうと理解した。

そして夜、点滴の針入れ。作家の西加奈子さんに似たカッコイイ夜勤の女医が手際よく、自分ではそこに血管があるかわからないような場所にすっと針を入れて引き抜いた。これから数日間繋がれたままになるため、さぞや大きな針で慣れるのに時間がかかるのだろうと想像したが、針を刺すときはともかく、入れた後はすぐに慣れた。最後に点滴を抜いたときに知ったのだが、針はシリコンの細いチューブだった。

さあ、いよいよだ。いざ帝王切開!
Part2に続く