4月25日(月)の朝、トゥットゥとしばしの別れをした後、サチ母がやってきて、保育園の送り迎え、食事、お風呂など、ずっとトゥットゥの面倒を見ていてくれた。そして私の入院が決まる前から予定されていた4月30日(土)のジェイジェイ父の十七回忌の準備のため、サチ母はトゥットゥを連れて千葉の家で帰った。十七回忌は恙無く終わったそうで、そのままトゥットゥは千葉にてゴールデンウィークを過ごすことになった。
その間、私の元にはサチ母が来てくれて、一緒に手術の説明を聞いてくれた。ジェイジェイが来てくれて、Wi-Fiや衣類や水のペットボトルを届けてくれるお遣いをしてくれた。会社の先輩が来てくれて、美術展の図録や美味しいお菓子を届けてくれたり、子供の名前の相談に乗ってくれたりした。妹のヤマナちゃんが来てくれて、Perfumeの新アルバムの話やお互いの結婚生活など他愛のない話した。
入院生活は実に規則正しく、慣れてしまうと暇になってしまうが、このように定期的に人が訪れてくれるので寂しい思いをすることはなかった。またデイルームに置かれた本を片っ端から読んだり(継続中)、売店で雑誌や新聞を買ってみたり、持ち込んだKindle(電子文庫)で読んでみたかった本を購入ダウンロードしたり、インターネットサーフィンに勤しんでみたりと、活字好きな私としてはなかなか忙しかった。
ただいろんなことで気を紛らわせていても、トゥットゥのことが気がかりだった。
ジェイジェイが気を利かせてFaceTime(iPhoneやiPodに標準装備のテレビ電話アプリ)でトゥットゥの顔を見せてくれた。テレビ電話の様子は先日のブログで書いた通りだ。初回は拗ねて会話にならなかった。その日の晩トゥットゥは泣いたと知り、不憫に思った。5月に入っても何度かジェイジェイがテレビ電話をくれて、トゥットゥの様子を見せてくれたが、再び千葉で夜に泣いたと聞かされて、ますます心配になった。サチ母は寂しいのだろうからと我儘を許していると言った。
★
トゥットゥが千葉から東京の自宅に戻ってくる日。ジェイジェイからトゥットゥを連れてお見舞いに来ると連絡があった。サチ母とエミィさんも一緒だという。ああ、トゥットゥに会ったらまず抱きしめてあげよう。
そして夕方17時頃トゥットゥは皆とやってきた。お互いに姿を確認すると私は手を広げた。
「トゥットゥ、いい子してた?」
ところが反応は予想外というのか、予想内というのか。期待していたものと違ったのだが、想定内というべきか。もちろん期待していたのはまっすぐ私の胸に飛び込んできてくれるというものであったが、あのお拗ねちゃんのトゥットゥがそう一筋縄でいくはずもない。
エミィさんに手を引かれてやってきたトゥットゥは私が抱っこの距離に近づくなり
「いやあ!」
と床に寝そべり始めた。「床汚いわよ!」とエミィさんやサチ母に止められるも、床に伏せってぐるぐる回って私の顔を見ようとしない。
はははは…。なんとなくわかる。これはお母さんに会えて嬉しいのと、久しぶり受け入れてもらえるか心配なのが入り混じったアンビバレントな感情がこういう表現になるんだよなあ。きっと。
エミィさんが優しく
「トゥットゥちゃん、大丈夫だよ。お母さんだよ。抱っこしてもらいな~。」
(この末尾の「な~」は、ヤンキーの「~しな。」ではなく、東北の方言と思われる。岩手出身のサチ母もよく使う、実に優しいニュアンスなのだ。)
と声をかけると、トゥットゥは素直に立ち上がり、私に手を伸ばした。私は抱っこした。トゥットゥは少し照れ臭そうだった。そして抱っこから降りると、大人達に促されるように、お土産だと言って、彼女が駅で押したスタンプ台紙と、母の日のお花とマカロンを手渡しでくれた。
「お母さん、はい、どうぞ。」
「うわあ、トゥットゥ、ありがとうね!」
「どういたしまして!」
やり取りも含めて、とても嬉しかった。
その後、何度かトゥットゥは私に抱っこされて満足したのか、エミィさんと遊んだり、廊下をダッシュをしてはしゃいだり、中庭に出たり、オヤツを食べたり、来る途中で見た公園にジェイジェイと行ったりと、終始自分のペースで過ごした。きっといままでの私(お母さん)がそこにいて安心したのだと思った。
★
その間、サチ母やエミィさんにトゥットゥの千葉での様子を聞いた。
サチ母談。トゥットゥは口の中に口内炎ができ、「口内炎が痛いからご飯食べない!」と言うらしい。ところがお腹がすくとおやつを食べようとする。それを注意すると、トゥットゥは「おやつばかり食べるから口内炎ができるのかなあ。」と反省したという。ハハハ…口内炎の事を聞かれると、私がそうやって説明していたからね。教育の賜物(?)だろうか。またデザートにデコポンをあげると口内炎に染みたらしく、「口内炎だからみかんは痛い!」と抗議。そのくせ大好物のイチゴは食べるという。「イチゴは痛くないの?」と聞くと「イチゴは大丈夫。」だそうだ。嘘だあ(笑)。
エミィさん談。エミィさんの友人が小学校3年生の娘を連れて千葉の実家に遊びに来た。この子は三姉妹末っ子らしく甘え上手な女の子で終始エミィさんにべったり。トゥットゥはお気に入りのエミィさんを占領されチラチラと見るそぶり。エミィさんが「トゥットゥちゃん、お膝に来る?」と声をかけると、「いい。おばあちゃんがいるから。」と気丈に振舞ってみせたという。ところがお客さんが帰ると大爆発。「エミィちゃんがMちゃん(お客さんの娘さん)ばっかり可愛がるから嫌だ!」と拗ねてしばらく口を聞いてくれなかったらしい。その話を聞いて、先日のブログで嫉妬について書いたが、その感情をきちんと表現できるのかと感心した。と同時に、弟が生まれたらどうなるだ、トゥットゥよ…と不安に思ったことは言うまでもない。
自分の話をされているとは露知らず。トゥットゥは帰り際に
「おしっこ! 漏れちゃう、漏れちゃう!」
と言って、私の手を引っ張ってトイレマークのあるところに行った。トイレもほぼ問題ないではないか。ああ、たった2週間会わないだけなのに、こんなに成長するものなのか。
世の中のお父さん、お母さん、子供のそばになるべくいてあげてほしい。成長を見逃さないように。