2018年3月3日土曜日

RISUきっず

11月半ば。池袋の三省堂書店の児童本売り場をトゥットゥとうろうろしていると、なにやら中央の円形テーブルを囲んで子供たちが熱心にゲームをやっているようだった。町のおもちゃ屋さんならよくある何かゲーム大会など催し物だろうか。私たちには関係ないなと通り過ぎようとすると、いつの間にかその場の責任者のようなお姉さんがトゥットゥに声をかけていた。

「興味ある?やってみる?」

ぱっと見るとそれはタブレット学習であった。まずいな、営業に引っかかると面倒だぞ。少し顔に出そうになったが、トゥットゥは誰の顔も見ようとせず、自分の行きたい場所、木のおもちゃのあるコーナーをまっすぐ見たまま顔を振った。

「すいませんー、娘は興味ないようなので失礼します。」

私は白々しく言うと内心助かったと思ってトゥットゥを連れてその場を去った。それで済むはずだった。

ところがである。トゥットゥは木のおもちゃのあるコーナーを堪能すると、帰ろうとする私の手を引っ張って言った。

「タブレットやりたい。」

えええー!? しかしやりたいと言うのに断る理由もない。お試しさせてもらって、家で主人と相談しますぅ~で逃げればいいか。タブレット体験場所に戻り、先ほど声をかけてくれたお姉さんを呼び止めた。

「え、お子さんが自分で戻ってきてくれたんですか。うれしいです!」

お姉さんのはじけるような笑顔。彼女は三省堂のエプロンを付けていて、いかにも「売ってやろう」的営業臭はせず、学生のバイトのようだった。若い子っていいわ…。私は雰囲気に呑まれる典型的な消費者である。





トゥットゥは席に座ると即座にタブレットに問題をセットしてもらった。「RISUきっず」どうやら小学校の算数の先取り学習教材のようである。

「絵と同じ形を探そう」(絵は回転していて必ずしも同じ向きではない)
「こちらの絵とこちらの絵、どちらが多いですか」(みかんとりんごなど、別のものが比べてある)

と言った具合だ。確かに同じ絵といっても「同じ」という概念が何を指すのか、どちらが多いといっても種類の違うものを数という概念に変換して比べられるのか、私たち大人は当然と思ってやっている抽象化という脳内処理も、子供にとっては少し難しい、まだ慣れない作業なのだと思った。子供の教材とは人間の知恵の付け方の手順が体系化されているものなのだと素直に感心した。

iPadユーザーのトゥットゥはタブレット操作は全く問題なく、問題自体もなんの苦もなくサクサク解いていく。100点画面と音が鳴るたびに営業のお姉さんは褒めた。トゥットゥはまんざらでもないようだった。一ステージが終わり、

「次の問題もやってみる?」

首を縦に振るトゥットゥ。その間に「RISUきっず」の説明を受けた。ざっとまとめるとこうだ。

・就学前に必要な算数の基礎をタブレット学習で身に付けるための教材。
・問題の解き方のコツはチューターと呼ばれる東大をはじめとしたブランド大学のバイト先生からタイムリーに届く。
・幼児が喜ぶように問題が工夫されている。
・反復学習ではなく思考力を鍛える良問が用意されている。
・自宅でのタブレット学習がゆえにその子のペースで進められる
・「RISUきっず」が終わると「RISU算数」へ移行。中学受験を見据えて、5年生になる前に6年生までの課題が終わらせることができる。
・今回のキャンペーンでは特別にタブレットの保証料(2000円弱)だけで1週間お試しができる。
・全12ステージ、一括29,760円。ペースは自由だがだいたい1年かけて行う内容となっている。1か月あたり2,480円くらい。

この説明で教材自体に強烈な魅力を感じたわけではない。ただ、ふと、娘には家では全く幼児教育は受けさせておらず(ピアノは除く)、「こどもちゃれんじ」や「どらキッズ」などしている親子を数組思い出して、このままでいいのかなと頭をよぎった。iPad大好き娘にYouTube見せたりタブレットゲームさせるよりはいいかと思った。

営業臭のしないお姉さんがトゥットゥに優しく声をかける。

「このタブレット、おうちでもやってみたい?」
「うん。」

あ、これ、トゥットゥのマジモードだ。私も重ねてトゥットゥに聞いた。やはり答えは「うん。」だった。





家に帰り、お試し契約をしたことをジェイジェイに言うと、

「本人がやりたいならいいんじゃない?」

と言った。親が子に施す能力開発とか親がけしかける中学受験とか全く興味のない、というか自発的なもの以外は全く信用していないジェイジェイは、トゥットゥのやる気モードを見て「問題なし」とみなしたようだ。

それに関しては私は少し異論があって、子供が何に興味を示すかは親が与えて観察しないとわからないという立場なので、幼い子供に全くの自発は発生しないと考えている。その点、ジェイジェイは彼自身が独立独歩タイプ、人に倣うなどまっぴらゴメン、基礎って何ですか?、いわゆる天才肌で飲み込みが早いタイプであり、ゆえに純粋に自分の力のみで湧き出た情熱を信じることができるのだ。典型的に指導者、教育者には「向かない」タイプである。

それは置いておいて。早速、タブレットが届くとトゥットゥは夢中でやりはじめた。全部で12ステージあるのだが(お試しでオープンされるステージは決まっている)、1日で1.5ステージもこなしてしまった。ものすごい集中力で。娘にこんな面があったのかと親の私でも驚いた。これだったら本契約に移行してもいいよ。ジェイジェイも依存なかった。





あれだけやる気に満ちてサクサク進めているように見えた「RISUキッズ」であったが、とたんにトゥットゥのペースが鈍くなった。どこで躓いているのかと言えば、「大きな数を数える」である。この教材、平気で50以上の玉の数を数えさせる問題があり、これが続いてトゥットゥはうんざりしていた。解き方動画では

「数えたら絵に線の印をつけていこう!数え終わったらメモしよう!」

と教授されるのだが、もう30を数えたくらいで集中力が途切れて、31の次が33になったり、カウント自体がおかしいことになっていた。そもそもトゥットゥは確実に100までそらんじられるかと言うと、その時点では怪しかった。特に19、20、29、30と10進の変わり目が弱い。39の次は60とかになることもあった。加えて、私が悪いのだが、トゥットゥには字の書き方を正式に教えておらず、見様見真似でしか数字も「あいうえお」も書けないため、字が汚くて、メモがメモの役割を果たさなかった。

やはり学習には順番があって、数字を数える、字を書くといった基礎も同時に底上げしてやらなければならないのだ。これにはいままで共働きだからと放っておいた自分に「NG」が突きつけられている気がして、大いに反省した。

しかし反省しても現状は急には変えられるものではない。この問題が解ければ、体験でやった楽しい問題ステージにいけるのに、ここでやる気が萎えないだろうか。それだけが心配だった。とにかく水曜日と土曜日は「RISUの日」と決めて、3問ずつやろうと親子で決めた。そして実際30分くらい付きっきりで一緒に数えてやった。

絵は明らかに10個単位で並んでいて、最初は思わず

「10、20、30…」

と数えてしまったのだが、トゥットゥはきょとーんとしていた。

「ほら、10の塊が1個、2個、3個…」

言っても無駄だった。10の塊を1とみなす考え方がわからないのだ。おそらく本当に算数、数学の才能に特化した子であればピンとくるのであろうが、彼女の場合はいたって普通の幼児であり、混乱を生むだけだった。やめた。チューターの先生が動画で教えてくれたように丁寧に二人で数えた。学習には順番があるのだ。





11月末にRISUきっずによる学習を開始して現在3月。じつはもう全てのステージを終え、振り返りテストのステージになっている。こんなに早くやるとは思わなかった。実質3か月。1年かけてやるんじゃないんかい…。

振り返りテストでは、あれだけ気が散って数えられなかった大きな数字もすんなり数えられるようになっていた。時計もピッタリと半(30分)であれば読めるようになった。足し算も引き算も手を使いながらだができるようになっていた。(すべて大好きな猫換算、「7-3」の場合、広場に7匹の猫がいました。3匹家に帰りました、となる)

算数の概念を押さえたので、「はじめて出会う数学の本」を与えようと思う。これを親子で読むのが楽しみだったのだ! これからが長いぞ。今後は文系でも統計とかできる人が重宝されるからね。

あるインターネット記事で読んだのだが、算数が得意ということに四則演算の速さは関係なくて、筋道を立てて答えを導き出せる力が重要とのことだった。実は私は小学校の時に算数は決して悪い点数ではなかったのだが、苦手意識があった。それは四則演算を鍛えまくっている公文勢の計算スピードに圧倒され、あそこまでできなければ得意とは言えないと思っていた節がある。そんな私も大学受験では文系ではあるものの、数学Ⅰ、数学Ⅱを使ったので決して苦手ではなかったのだろう。

苦手意識はもたいないようにある程度導いてやりたいものだ。