2018年12月14日金曜日

ゴッシュご乱心!?

二歳半になろうと言うのに二語発語がやっとのゴッシュ。同じころトゥットゥは豊かな表現で話していたことを思い出すが、一般的に男の子は言葉が遅いというから心配は特にしていなかった。そうは言っても同じクラスの女の子たちのママとのおしゃべり、そこからママたちのクラス情報入手によるLINEでの情報交換を見るにつけ、うちのゴッシュからは何も裏が取れないことに一抹の寂しさを覚えた。

彼は名詞もずいぶん覚えてきたものの、先生の名前などはまだあやふやだった。担任の先生は全部で4人いるのだが、先生の中で名前が出てくるのは、担任以外の先生2名、大好きな男のA先生と非正規職員で動物の名前で覚えやすいB先生だった。どれだけ教えても、いずれの先生も「A先生」もしくは「B先生」と呼ぶのだった。

ママLINEによると、10月末頃から先生による「おおかみごっこ」が流行っているとのことだった。担任のC先生迫真の演技によりかなり怖いらしく泣き出す子も多数とのこと。それは二人のクラスメイトの女の子の話から裏が取れた。ちょうど保育参観に参加したお母さんの情報も加わり、精度が増した。

「おや、狼の足音が聞こえてくるぞ」先生がまず予告する。だんだん声を低くして「狼が近づいてくるぞ」。そして最後に「狼だぞ、ガオー」と子供たちを襲い始める。子供たちは本気で恐れて逃げ回る。「七匹のこやぎ」よろしく、かなり面白いことになっていることが想像できた。

そこでゴッシュに

「C先生はおおかみになるの?おおかみはこわいの?」

と尋ねてみた。答えは

「しんかんせん!」

だった。マジ、しんかんせんしか言わねー。

そんな時、女の子の観察力と語彙力はすごいわと思える事件が起こった。





11月のとある夕方、保育園迎えの時間帯、ゴッシュを迎えに行く途中、帰るところのおしゃべり上手なSちゃん親子とすれ違った。Sちゃんはすれ違いざま

「あ。ゴッシュくんママ。あのね、ゴッシュくんがプラレールでXくんの頭を何度も刺してたんだよ!ガシンッ、ガシンッ、ガシンッて。」

と言った。私は混乱した。プラレールで頭を刺す? 息子の暴力事件云々よりもどういう状況なのか頭をハテナが駆け巡っていた。Sちゃんのお母さんが慌てて

「すいません!すいません!! 子どもの言うことなんで真に受けないでください。でもさっきからうちの子がゴッシュくんとXくんのことをずっと言ってて、本当かどうかわかんないんですけれど。今は和やかだったんですが、何か喧嘩のようなものがあったのかもしれません。」

「Sちゃん教えてくれてありがとう。Sちゃんママ、ありがとうございます。最近うちの子乱暴なので何かやらかしているかもしれません。先生に聞いてみます。」

そう言って教室に向かった。

教室に入ると何事もなかったかのような平和な様子だった。ゴッシュは私の姿を見ると一目散に駆けてきた。ここまでも普通。先生も「ゴッシュくん、ばいばい~」と手を振り、いたって普通。私はどうしようか迷ったが、意を決して先生に聞いた。Sちゃんが言ったとおりに、Sちゃんに教えてもらったと言って。

「…!!!!! Sちゃん、そこまで詳細に話したんですか!?」

その反応からディテールは合っていると確信した。プラレールでXくんを何度も刺した!

「もう解決したので特にお話することはないと判断したので黙っていたのですが…」

と観念した顔で先生は話し始めた。

ゴッシュは電車の友Xくんと窓の桟をレールに見立ててプラレールの車両で遊んでいた。ところがゴッシュが目を離した隙に、ゴッシュが置いままにしているプラレールをXくんが取り上げた。目を戻すとそこには自分のプラレールがない。Xくんがニヤニヤしながら持っている。Xくんはゴッシュと仲がいい分、ちょっかいを出しているのだ。ゴッシュが抗議すると先生がとりなす。それが何回か続いたという。

そしてとうとうゴッシュは堪忍袋の緒が切れた。ゴッシュはプラレールを奪い返すと、「何するんだ!」というような奇声を上げて、それでXくんの後頭部を何度も叩きつけたと言う。それが後頭部に新幹線の鼻を突き刺すような様子だったというのだ。なるほど、刺す!

そしてゴッシュの声と刺す音があまりにも大きかったので、遊んでいた子が一斉に振り向いた。先生も気づいたときは時遅く、数回叩きつけた後に二人に割って入った。その場面だけ見ればゴッシュが明らかに悪い。ゴッシュは暴力を振るった人という目線を向けられ公開処刑のような目にあい、あたふたして最後はしょんぼりしていたらしい。

「Xくんは幸い怪我はありませんでしたし、ゴッシュくんもみんなに冷たい目で見られて本人も反省している様子がありましたし、それまでXくんのやりとりもありましたので、両方に言い聞かせてこの件は終わらせたんです。…それにしてもSちゃん、よく見ていたんですね。」

Xくんに怪我がなくてほっとしたし、ゴッシュの気持ちがわかる分、なんだか笑える事件だった。ほんとSちゃんが教えてくれなければ知ることのない事件だった。





11月の末頃からゴッシュもおおかみごっこに言及し始めた。

「おおかみこわいねー、先生こわいねー」

とうとうおおかみの話が…と思っていたら、12月に入ったら自ら

「おおかみだぞー、がおー」

と狼になりきるようになった。「がおー」の言い方が可愛くてちっとも怖くなく、トゥットゥと二人で笑った。

そして私も先にママさんLINEで情報を入れていたものだから、前出のC先生の真似をして低い声で

「お母さんおおかみだぞー、がおー」

と言った。ゴッシュは恐怖で顔を引きつらせて、目に涙を浮かべた。…これは面白い。

トゥットゥは同じ年くらいの時、夜騒いで寝ないときは「バイクに乗って鬼が来る」と脅して効果てきめん、目をぎゅーっとつぶって寝ようとした。彼女はバイクも鬼がどんなものか理解していたからだ(引っ越し前は幹線道路が近くバイクの音がよく聞こえたのだ)。しかしゴッシュはまだ鬼が何かわからないため、その脅し方は無効だった。その点このお母さん狼というキャラは理解できており、私が「お母さん狼になるよ」と言うと首を横に振って、目をぎゅーっとつぶるのだった。寝かしつけにいいキャラを見つけた。

12月半ばの連絡帳に「おおかみごっこ」の話が書いてあった。なんでも、ゴッシュはおおかみ予告があってもC先生に戦いを挑むそうなのだ。しかし本当に先生が狼に豹変するとものすごい逃げ足で去って行き、C先生が追い詰めると

「C先生、C先生!」

と目に涙を浮かべて正しい名前を呼ぶではないか。先生たちの間でも

「なーんだ、正しい名前言えるじゃん!」

と大笑いだったとか。人は生存(?)がかかると力が発揮されるのかというよい例だった。

言葉をどんどん覚えていく様子のゴッシュ。最近はいっぱい、ちょっと、ぜんぶというような副詞が登場し始めた。このたどたどしい会話もあと少しなのかと思うと名残惜しいが、彼の成長を祝福したい。