デコ母に教育事情を心配されて帰京した後、トゥットゥに親としてできるだけ教育を施そうと決めた。現在のトゥットゥを鑑みて、年中さんになるまでの目標をざっくり決めた。まずは100まで数を数えることだ。私は年中頃だったか、お風呂に浸かって100まで数えていたのを茹だって苦しい記憶と共に覚えていた。そこでまずはお風呂で30まで数える。覚えたら10から40、20から50…少しずつ増やして、いずれは100まで数えられるようになれば良いと思った。
実際30まで数えることは3歳になってからお風呂で一緒にやっていた。いつも「21、23、24」と「22」が抜けるのはご愛嬌だったが、それでも彼女は30までは数えることができた。できると信じていた。
さて事件はお風呂で起こった。いつもは漫然と一緒に唱えていたのを、私が数える声を止めていきなり試したのだ。
「28、29…、さあて、次は何?」
「…」
「どうしたの、いつも数えているでしょう?」
「…”にじゅう”…」
とトゥットゥは口ごもった後、上目遣いで恐る恐る答えた。
「”はち”?」
私は冗談だと思った。
「いやいやいや、26、27、28、29でしょ。28は29の前。」
「…じゃあ、”ろくじゅう”?」
なぜここで60が出てくる?
「よく考えてごらんよ。1、2、3って数えるでしょう。”いち”と”じゅう”で10、”に”と”じゅう”で20、”さん”と”じゅう”で?」
ああ、だめだ、だめだ。3歳児に法則を教えても、それが法則なんてわかりゃしない。トゥットゥは明らかに混乱していた。
「落ち着いて。もう一回、26、27、28、29…さあて、次は何?」
「”にじゅうはち”」
オーマイガッ! 私も彼女が”さんじゅう”と言えないことに苛立ちが募った。
「30だよ! いつも一緒に数えているじゃない。どうしてわからないの! お母さん、トゥットゥはとっくに30まで数えることができると思ってた。がっかりだよ!」
お風呂で大きな声を上げた上に、嫌味まで追加してしまった。もちろんトゥットゥは押し黙ってしまったことは言うまでもない。
寝る間際にトゥットゥが少し寂しそうに言った。
「今日はお母さんにたくさん叱られた。」
彼女は私の期待に応えられなかったことに胸を痛めているように見えた。教育とは悲しい思いをさせるものではない。私のやり方は間違っている。それだけははっきりとわかった。
「トゥットゥ、ごめんね。お母さん、トゥットゥが30まで覚えてるって期待しちゃったんだよ。でも覚えてなくて当然だよね。まだ3歳だもん。4歳のお誕生日までに覚えたらいいよ。」
「うん。」
「で、29の次は?」
「…”にじゅうはち”」
「30! んー、じゃ、29の次は?」
「”さんじゅう”」
「やったね。」
ハイタッチをして私たちは眠りについた。