私は寺社仏閣や仏像が好きで、独身時代は一人でよく京都や奈良や鎌倉の寺めぐりをしていた。それは主に休暇をとってオフシーズンの人がほとんどいない静かな寺をめぐることが多かった。GWというオンシーズンに行ったのは初めてだったのである。しかも平泉は世界遺産だ。想像すべきだったが今回はそれが目的ではなかったのでごっそり抜け落ちていたのである。どこの風景にも大勢の人がいることを。正直これにはげんなりした。
そうは言ってもオンシーズンならではの素晴らしいこともある。今回はトゥットゥをサチ母と大叔母に預け、ジェイジェイと二人で自転車で観光地を回った。以前、3月の小雪舞う寒空の下、観光客もほとんどいない中、一人奈良・斑鳩の里をめぐった寂しさとはまったく違う。季節のよい中、自転車で風を切る気持ちよさと言ったら。まさにウキウキという言葉がぴったりだった。しかしこれは気候だけではあるまい。浮き足立った観光客の姿が目に飛び込んでくることで気持ちが高揚するのだろう。げんなりとウキウキ。これを楽しむのがオンシーズンのすごし方なのかもしれない。
さて中尊寺金色堂について。私は山を少し登るとすぐに金色堂があるものだと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。参道を進むと次々とお堂が現れる。その度にお守りやご朱印を渡す小屋がある。人々は散財する。まるで金色堂に到着させまいとするトラップのようだ。そのうちどこかで見たことのある悪魔のような護符…角大師の護符を見かける。ここは比叡山の横川か? むむむ、比叡山?? パンフレットを見た。わー、このお寺を開いたのは比叡山延暦寺のスーパーエリート円仁だったか! 事前調査を怠ったせいで開祖という基本情報を見落としていた。どおりで作りが比叡山に似ているわけだ。
本堂を過ぎ金色堂に近づくと、金色堂とそれ関連の宝物殿を拝観するチケット800円を買い求める人たちの長蛇の列ができていた。私たちは大叔母に優待券をもらっていたためすいすい行けるはずだったのだが、優待券を手にしていると列を整理するおじさんに呼び止められ並ぶことに。ジェイジェイと「おかしいなあ。そのまま行けるはずだよね」と話すも小心者の二人は整列した。チケット売り場でそれを出すとやはり並ばずそのまま行けたことがわかり、温厚な二人がこの場でかなり怒った。しかしこの列に並んだことで、春の天皇賞(競馬)の予想もできたわけだし、この後覗いた白山神社で能「竹生島」も見れたわけだし、金色堂からの帰り道でよしとしようということになった。
金色堂? 人が多すぎたせいか、テレビで見すぎたせいか、印象が薄だったのだが、柱の螺鈿細工は生で見れて感動した。仏像が独特な構成になっているのが奇妙だと思った。円仁先生、教えてください。もう少し調べてみようと思う。
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ところで、今回は幼い頃から何度も平泉に来ているジェイジェイに観光ルート設定をまかせた。
11:30スタート。駅前でレンタサイクルを借りる→柳之御所遺跡・資料館→無量光院跡→高館義経堂→中尊寺→毛越寺→駅前でレンタサイクルを返す。17:00ゴール。(観光ページはこちら)
ジェイジェイは柳之御所遺跡と高館義経堂にこだわった。できれば史跡は余すところなくめぐりたいが、寺好きな私としては中尊寺をゆっくり見たいというのが正直なところで、昼前スタートでいささか盛りすぎているのではないかと心配になった。しかしその場所に行ってみるとなぜこだわったのかがよくわかった。
柳之御所はジェイジェイの祖父母がもともと住んでいた場所だったのだ。国道4号線のルート変更で立ち退きしたそうだ。その工事の途中、平泉の黄金時代を築いた藤原氏の遺跡(「吾妻鏡」に出てくる政庁・平泉館)が出てきたことから、そこは柳之御所遺跡公園になっていた。ジェイジェイは自転車に乗りながら「ここを曲がるとおばあちゃん家でね。」と家族で行った遠い日の思い出をつぶやいた。ジェイジェイは芝生が生い茂っただだっぴろい公園に降り立つとある場所に行き、「ここが玄関で、ここが庭。池があって。ここが縁側でここが離れで。」と屋敷を歩くようにして私に説明をした。
ビジターの私にとってはここは史跡の平泉館でも、ジェイジェイにとっては祖父母の家なのだ。私は滅んだ藤原氏のことを思うよりもジェイジェイの亡くなったおばあちゃんのことを思うほうが、それこそ芭蕉の「夏草や兵どもが夢の跡」を追体験できる気がした。この公園の広さがより悲しさを増した。「ここから北上川にすぐ降りれてね。みんなで川で遊んだんだけどね。」 新しくできた大きな堤防により北上川が見えなくなっていたのが救いだと思った。流れ行く象徴でもある川が見えてしまうとより悲しさが増すので。
次に行った義経堂は源義経終焉の場所と言われているお堂がある。ここは北上川が一番美しく一望できるスポットだった。ジェイジェイはこれが見せたかったのか。先ほど堤防でせき止められた悲しみが溢れてきた。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」と方丈記の一説が浮かんだ。こういう気持ちを追体験できる喜びに、芭蕉や鴨長明や高校の古典の授業に感謝する日がこようとは!
観光の最後の毛越寺の鐘楼で夫婦で家内安全の願いをこめて鐘を突いた。護摩焚きが付いて一突き500円。私たちもいずれ夢の跡になるのだから、一生懸命生きよう。
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トッゥトゥへの気付き
様子
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指差し。人物当て。「お母さんどれ?」、「ばあばどれ?」と聞くと正確にその人を指すようになった。初日の焼き肉中に「お父さんどれ?」と聞くと、自信を持って焼肉の鉄板のしいたけを指した。ジェイジェイの情けない声「ええ、しいたけなのー!?」、みんなの笑いを誘った。それ以後、我が家ではお父さんはしいたけとなった…。
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体調
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熱はすっかり引いた。お薬で鼻とのどの症状は治まっている感じ。
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食事
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いちご以外にも大好きなパンをたくさん食べた。
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