7月、トゥットゥはひどい夏風邪を立て続けにひいて、野菜ジュースで乗り切った。もちろんそこには薬も混ぜた。嫌がらずに飲んでくれれて、カゴメの野菜生活様様と感謝した。今回も野菜生活でいけると思った。その日の晩、躊躇なくジュースに混ぜてご飯の後に出した。私は「デザートよ。」という風な顔をして。
ところがだ。彼女は野菜生活がお気に入りで7月の風邪が治まっても、「ジューシュ!」と冷蔵庫を指差し所望して8月も飲み続けた。そのせいか、舌が正常なジュース、つまり薬の入っていないジュースの味を知ってしまったのだろう。コップから一口飲んだだけで変な顔をして、二度と飲もうとしなかった。それはストローマグに入れても同じだった。コップから移し変える様子をじっと見ていた。中身が同じ薬入りジュースだと知っているのだ。か、賢い。結局この日の晩は風邪の抗生物質はおろか、便秘対策の酸化マグネシウムも飲ますことができなかった。
気を取り直して翌朝、9日(火)。ジュースに混ぜる手はもう使えないと判断した。よって今度は牛乳に混ぜてみることにした。毎朝青汁マルツエキス(麦芽糖)牛乳を飲んでいる。ここに混ぜれば濃い麦芽糖の甘さとまろやかな牛乳の味で誤魔化されるのではないか。しかし期待はすぐに裏切られた。こちらもコップから一口飲んだだけで変な顔をして、二度と飲もうとしなかった。そんなにダメか。私もコップのふちに口をつけてチビっと飲んでみた。あ、甘すぎる! マルツエキスがそもそも甘いのに、抗生物質がシロップ味になっている。これはダメだわ。
9日(火)昼。あの甘さがダメならばと、マルツエキスを抜いて牛乳に薬だけを混ぜて与えてみた。もちろん薬を混ぜるプロセスは一切見せずに何食わぬ顔で食卓に出した。トゥットゥはコップすら持とうとしない。私が「美味しい牛乳だよ~。」と勧めるも手で払いのける。どうやらすでにそのコップ自体が怪しいとにらんでいるようなのだ。昨晩、今朝も使った彼女専用のコップだからな…。しかし私も必死だ。飲んでもらわないと風邪が治らないと思い、トゥットゥの口にコップを押し当てた。すると彼女はコップを両手で掴み、私の動作を押し返したかと思うと、すぐさまコップを私の口に押し当てた。
「お母さんが飲んでみてよ!」
強くにらむ彼女の目はそう語っていた。あ、あんた賢いよ。私が降参した瞬間だった。
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その日の夕方、サチ母に電話をした。会社を2日連続では休めないため、翌日、トゥットゥの面倒を見てもらおうとお願いのためだった。その時薬の件を話した。するとサチ母はこう言った。
「トゥットゥちゃんは賢いのよ。薬は騙して飲ませようとしないで、いい聞かしたほうがいいかもよ。」
確かにそうだ。先日も便秘対策で保育園の先生から、トゥットゥは言うことがわかっているから、言い聞かせて食べさせるようにと言われたばかりだ。子供だからと言って舐めてはいけない。やはり正直に一人前の人間として向かい合うべきなのだろう。
その日の夕食後、薬はやはり牛乳に混ぜた。自分が飲み比べて野菜ジュースよりは牛乳のほうがましだと判断したからだ。トゥットゥには薬を混ぜる様子を見せた。
「これはトゥットゥの風邪を治すための薬です。飲むとしんどいのが治るよ。」
そしていつものコップに入れてトゥットゥの前に出した。少し嫌そうな顔をしたが、彼女は頑張って飲んだ。私は感動した。
しかし感動はその晩だけだった。翌朝も同じようにしたがもう飲まなかった。ああ、気まぐれなのね。とほほ。サチ母がお昼にやってきて、看病をバトンタッチする際、無理して薬を飲ます必要はないと伝えた。抗生物質は決まった期間、決まった回数飲ませないと意味がないのだ。昨晩だけ飲めても意味ないよね…。それにトゥットゥはすでに元気になりかけていた。
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9日(火)に会社を休んでトゥットゥに一日付き合っただけで、薬をめぐって彼女の人間としての賢さがよくわかった。なんて用心深いんだろう! 今までは私の出すものは何も疑問を持たずに飲んだり食べたりしていた。それは彼女の世界は主に母と子の二人で成り立っていて、母親に全幅の信頼を寄せていたということだ。ところが彼女の世界は広がった。そして自分で体験して判断するという人間として基本的な知恵を見につけたのだ。変なものを飲まされないように、食べさせられないように、味を判断する。こうやって太古から人間は生き延びてきたのだろう。その成長を見るとは感慨深い。
他にも感動した出来事がある。彼女の好きな「ぴょーん」という絵本がある。動物たちがぴょーんという擬態音と共にジャンプする絵が描いてある絵本だ。昔からその本に食いつきがいいのは知っていたが、しばらく読んでいなかった。最近この本を読んであげたジェイジェイからこの本を読むとトゥットゥは一緒に「ぴ、よーん」と叫ぶと聞いていた。たまに「ぴ、よーん」と言いながらよちよち歩いているのも見た。よほどあの本が好きなんだなと微笑ましく思っていた。
私が会社を休んだ日、久しぶりにこの本を読んであげた。ジェイジェイの言うとおり動物たちが飛ぶシーンで、トゥットゥは一緒に「ぴ、よーん」と叫んだ。か、かわいい!そう思いながら読み進めた。そして最後、人間の女の子が飛ぶシーン。「私も…(女の子がしゃがんでいる絵。)、ぴょーん(次ページで飛び上がる絵)」 そこをトゥットゥの名前に置き換えて読んだ。
「トゥットゥちゃんが…ぴょーん!」
トゥットゥは立ち上がって叫んだ。
「ぴ、よーん!」
一緒に両手を上げて! トゥットゥは飛んだつもりになっているのだ。足は1ミリも宙には浮いてないけれど。
私が毎日会社に行っている間、こんな成長が見られるとは思ってもみなかった。この日ほどトゥットゥを保育園に預けて働いていることを後悔したことは今までなかった。ああ、もう少し彼女と一緒に過ごしたい。この可愛い成長を間近で見ていたい。現実問題は東京で生活するには夫婦共働きは必須で無理な話なのだけれど。
トゥットゥの熱は神様がくれたプレゼントなのかもしれない。
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トゥットゥへの気付き
様子
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10日(水)はサチ母に預けて保育園をお休みさせる。11日(木)は登園。保育園にお迎えに行くと、ままごと用スカートをはいて元気に遊んでいた。保育士に聞くとお気に入りらしい。かわいい。病みあがりなので心配したが、よかった。
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体調
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結局薬は1回しか飲まなかったが、鼻水以外はわりとすぐに元気になった。そしてその風邪はもれなく私に移った。鼻水しんどいっす。
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食事
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10日(水)はサチ母特製にゅう麺をもりもり食べたらしい。高野豆腐や練り物やにんじん、干ししいたけが入っている。私が食べても美味しい。
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