今日もいつものように機嫌が悪く、かろうじて大好きな野菜ジュースで機嫌が上向きになった。ところが彼女はそれ以降朝ごはんを何も食べようとしなかった。まだ寝ぼけているのか。「食べないの?」「食べてみよう?」など声をかけて促してみるもののダメだった。実際に匙で食べさせてみようとするもダメだった。はて、どんなな朝でも白米だけはもりもり食べるのに。白米だけは…。白米! そうだ、それだ!!
トゥットゥはいつも白米だけを先に食べて、おかずはほとんど食べない。最後に大好きな味噌汁をすすってフィニッシュだ。この味噌汁も具を歯で濾してしまうので、結果固形の野菜や肉はほとんど摂取していない。毎朝のこのパターンだ。
なんとかおかずを食べさせようと私は毎朝10分格闘する。「一口、一口だけ。」と拝み倒して食べさせる。その言葉のとおりトゥットゥは本当に一口だけで、「私は義務を果たした」という顔をして口を固く結び、首を振って差し出された匙を拒否する。時には白米におかずを隠して口に入れることがある。これは最初の2口まではOKなのだが、3口目から警戒されて食べなくなる。味が違うからだ。たとえ白米だけに戻して何も隠されてないと証明しても一度騙したらもうダメだ。彼女は用心深いのである。
この10分さえあれば、食器の洗い物や夕方の炊飯予約などがはかどり、私もトイレに行くことができて、5分早く家を出ることができる。この時間を稼ぐためにその日に限って私は白米におかずを混ぜた。それは昨晩の肉じゃがだった。具は細かく刻んで甘辛の汁をかけてご飯に混ぜた。見た目は当然のことながら白くツヤツヤに輝くご飯ではなくではなく、茶色のねこまんまのようになった。目で判断して食べるようになったトゥットゥがこれを気に入るはずがない。食べないのは当然だった。私はこの作戦は失敗だと認めた。新しく白ご飯を食べさせようにもお櫃はすでに空だった。ご飯を食べさすのは諦めた。トゥットゥは当の昔に諦めていた。
彼女はすでに締めの味噌汁に入ろうとした。ご飯を食べないのであれば、せめて味噌汁の具を食べてほしい。この日の具は豆腐だった。私は味噌汁と一緒にすすれるように豆腐を小さく砕き、その椀をトゥットゥの前に差し出した。
トゥットゥは切れた!椅子の上で仰け反り返った。
「ぎゃああああああ!
(味噌汁に何したのッ!?私の飲みたい味噌汁はこんなんじゃないのよー!)」
「でも、あんた、固形のもの、何も食べてないじゃないのよ!」
私はクラッシュ豆腐入りの味噌汁を匙で飲まそうとした。その瞬間、トゥットゥが匙を手で払いのけた。味噌汁が私の服にかかった。私の中で何かがブチっと切れた。条件反射的にトゥットゥの頭を叩く…叩こうとした。そして一瞬迷った。呼吸をした。それで手を置くはずだった。しかし呼吸をしても怒りはこみ上げてきた。一度飲み込んだ吐き気のように。結果、彼女の頭を叩いていた。
トゥットゥはさらに火がついたように泣いた。私も怒りのボルテージが最高潮に達していた。
「なんでご飯を粗末にするの! なんでご飯を食べないの! ご飯を食べない子はお母さん、嫌いだ! 」
無言で且つ乱暴に食事エプロンを取って、椅子から下ろし、ベッドの上に放り置いた。
「ここにいなさい!」
私は時計を確認した。7時30分。すぐに洗い物に取り掛かった。トゥットゥはすぐにベッドから降りてきて、「おかーしゃー、おかーしゃー」と泣いて足にまとわり付いた。私はしばらく洗い物をしながら彼女を無視した。腹が立っていることをトゥットゥにわからせたかったのだ。
しかし洗い物をしながら次第に冷静になった。なんてことをしてしまったんだろう。トゥットゥを本気で叩いてしまった。彼女を怒っても理由なんて何もわからないだろうに。彼女に怒っていることをわからせようとするなんて愚の骨頂だろうに。
こんなもの食べたくない、それの何がいけないの? なんで叩かれるの? なんでお母さん怒っているの? きっとトゥットゥの頭の中はそんなことがぐるぐると渦巻いていることだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。そう思った瞬間、私の足元で右に左に回り込んで様子を伺って泣いていた彼女を抱き上げて、詫びた。
「叩いてごめんね。お母さん、ご飯を食べてほしかったんだよ。でもご飯はもうないからトゥットゥの好きなバナナ食べよう。」
再び椅子に座らす頃にはトゥットゥは泣き止んでいた。しばらく独り言を言いながら皿の上のバナナをじっと見ていたが、そのうち手に取ってもりもり食べた。いつもの朝に戻った。
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保育園に向かう途中もトゥットゥの頭を叩いてしまったことをぐるぐる考えていた。私だったら叩かれた相手なら怖くて二度と近寄れない。それなのにトゥットゥは「おかーしゃー、おかーしゃー」と言って寄ってくるのだ。それは本能ではない。後天的に社会性(他人との関係)を確立した彼女に、現時点で唯一残された道だったのだ。どういうことかと言うと、それだけ彼女は母親の私を最初の世界(他人)として信頼しており、私に拒否をされると彼女の世界はなくなってしまうに等しいのではないか。
一息置いたにもかかわらず、怒りをコントロールできなかった。逃げ場のない(他の世界が確立されていない)彼女を追い込んでしまった。暗澹たる気持ちになった。
毎朝寄る神社で懺悔をした。そして彼女に再び謝った。何事もなかったように彼女は笑っていた。母親の私は彼女の世界を作り、守る人であっても、壊しては決してならない。笑顔を見て誓った。
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トゥットゥへの気付き
様子
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◆「バイキンマン」「ドキンちゃん」と言い、それらキャラクターを指すようになった。
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体調
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中耳炎が完治するまで定期的に耳鼻科に通うことにした。しかし耳に鼻に何かをつっこまれる耳鼻科の診察室が恐怖のようで入り口から大泣き。
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食事
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見た目重視です。
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