それから「ガンバリマンの歌」をYouTubeで調べ、トゥットゥに正確に覚えさそうと、私やジェイジェイは気がつけば歌った。トゥットゥは私が歌うとリズムに合わせて肩を左右に揺らし手を叩き、「エイエイオー」の部分でこぶしを突き上げる動作をしたが、「ガンバリマンはがんばるさ~」という歌詞は覚えられず、一人で口ずさむ時は相変わらず「がんばって~」と歌っていた。連絡帳には保育園の先生の声援「がんばってー」を真似すると書いてあった。混じっていて歌としては間違いではあるが、「がんばって~」は彼女なりに覚えた単語なのである。
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<戦場>
さて、朝。事前に配られた上が白、下が黒のドレスコードどおり、トゥットゥに白のTシャツと黒のレギパンの体操服もどきを着せ、おろし立ての靴下を履かせた。靴はかけっこができるようにいつもの靴を履かせ、抱っこ紐で抱っこをした。トゥットゥはいつもと違うと感じ取ったようで、少し緊張した顔をしていた。ジェイジェイと一緒に家を出て、彼は最寄駅で運動会に招待したサチ母を待った。私とトゥットゥは8時45分に間に合うように保育園に向かった。
すでに保育園のグラウンドはわが子や孫を見ようと家族であふれかえっていた。保育士たちは皆一様にフューシャピンクのTシャツを着て、大勢の人の中ですぐに主催側関係者とわかった。なかなか良い工夫である。3歳から5歳組の先輩園児たちはすでに紅白帽を被り教室前にスタンバイしていた。1歳児組はどこだ? そういえば事前に1歳児組は緊張しないようにいつもどおりの教室に連れてくるように指示があった。
二階の教室に向かった。教室にはゴザが引かれ、その上に靴のままの1歳児組の園児たちがいた。皆、外出用のオレンジ色の帽子を被っていて、何が始まるかよくわからないというよにキョロキョロしていた。トゥットゥをゴザの上に置こうとすると不安そうな顔をするものだから、親心でその動作が鈍った。しかしそれを見逃さなかった保育士からすかさず「お母さん、大丈夫。外の観客席に移動してください。」と言われ、背筋がピシっとなった。そこにはこれから戦いが始まる戦場のような雰囲気が漂っていた。運動会、練習を重ねてきた子にとっては晴れの舞台、まあ、戦場なのかもしれないな。
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<開会式>
開会式前。すでにスタンバイしていた3歳から5歳組の園児の脇から、2歳組が登場した。そしてトゥットゥたちの1歳組が大勢の先生たちに連れられて登場。職員室の前に座った。座った。座った?はたしておとなしく座れっていられるのか?
そんな心配をよそにアナウンスが流れると5歳組女児たちが園庭に横一列に並んだ。手にはキラキラのポンポン、腰には色とりどりのフワフワのスカートをまとっていた。音楽に合わせてチアリーディングが始まったのだ。いっちょまえにフォーメーションダンスをしている。まるでAKB48、いや横列で魅せるあたりはモーニング娘。だった。何よりみんなの前で踊る緊張と、可愛い格好をした誇らしさが入り混じった顔がまぶしかった。5歳になったらトゥットゥもこんなことをするのか!?胸に込み上げるものがあった。トゥットゥを見ると、1歳児は皆おとなしく座っていた。驚きだった。
チアリーディングが終わると次は開会式だ。先輩園児の大きい組順の入場が始まった。1歳児は最後から2番目。大勢の先生たちに手を引かれて入場した。ざっと見ると8名はいようか。特にトゥットゥのように早生まれの子は2名園児につき1人の保育士が付いた。0歳児はお母さんに抱っこされて入場していたので、先生の数を見ると他の組にくらべ一番のVIP待遇だ。
園長先生の挨拶、近所の小学校の校長先生の挨拶がおわり、5歳組園児6名による挨拶。
「ぼくたち、わたしたち、保育園最後の運動会です。一生懸命練習をしました。
みなさん最後まで楽しんで行ってください。」
「最後の運動会」という言葉にうるっときてしまった。最後になればここまで堂堂と挨拶ができるのか。トゥットゥのことを思い描いては最初から感動しっぱなしである。
しかし当のトゥットゥは開会式から立派に行進して去るはずが、早速一人だけ先生の抱っこのお世話になっていた。しっかりせい!甘えん坊。現実に目が覚めた次第である。
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<かけっこ>
すぐにトゥットゥの最初の出番、全組によるかけっこがはじまった。もちろん1歳児は一番最初である。月齢の大きい順から登場し、トゥットゥは1歳児で一番最後に登場した。トゥットゥより数ヶ月生まれが早い1歳児たちの見事なフォームでの走りっぷりを見ると、運動会前からの予想はしていたものの、改めてトゥットゥのよちよち・よたよたでかけっこはどうなるのかと心配になった。
1歳児最後の組で4名、小さな子たちが並んだ。トゥットゥは一番奥、子供たちの名前を呼ぶためのマイクを持つ先生の側だ。その意味がすぐわかった。トゥットゥは一直線に並ばせられたものの、キョロキョロして、すぐにその場から離れようとした。そのため先生に手をつかまれていたのだ。ああ、普段の散歩も行き先不明でフラフラだもんな…納得した。そして先生がメモに目を落としてマイクで名前をアナウンスしようとした隙に、案の定トゥットゥはフラフラとスタートしてしまった。こらこらこら。
ひっぱりもどされてもう一度。順番に名前を呼ばれ、「はい」と手を上げることができた。
「ヨーイ、ドン」
4名は一斉に飛び出した。走るんだ! 走る…走る? トゥットゥだけが明らかに歩いていた。そして途中で止まった。
「えっと、何するんだっけ?」
そんな感じの戸惑いだった。後ろからやってきた先生がトゥットゥに走るしぐさを見せたが、彼女は意に介さない。結局先生に背中を押されてようやく走り始めた。手を広げた先生の元に飛び込んでゴール。5歳組のお姉さんに手を引いてもらって退場した。
かけっこはできたとは言い難い仕上がりだったが、泣かずに終えることができた。1歳7ヶ月、それで十分である。
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<弟夫婦が来てくれる>
ふと正門のほうを見ると義妹のユキちゃんの姿が見えた。0歳児(ターくん)がいる宵っ張り夫婦に朝9時から運動会に招待するのは気が引けたが、近所なのに声をかけないのも水臭いので、お誘いのメールを送った。ユキちゃんはトゥットゥの競技に間に合うように来てくれていたのだ。嬉しい! ジェイジェイとサチ母に断りを入れてユキちゃんに挨拶しに向かった。
我が弟のティエティエは追ってくるそうで、ユキちゃんとターくんだけ先行で見学。トゥットゥのかけっこに間に合ったようだ。トゥットゥが集団行動をしているということ自体感動すると言ってくれた。当のトゥットゥはユキちゃんの見学位置から近い場所にいて、大人しく見学しているようだった。私に気付くと集団行動を乱すだろうからとトゥットゥには顔を見せずに、ユキちゃんに挨拶だけしてその場を後にした。
0歳児の親子競技が終わると、5歳組男児による応援合戦。赤組、白組と分かれて、男の子たちが6人ずつバンカラな応援合戦を行った。リーダー男児の掛け声「一拍子!」「二拍子!」「三拍子!」「三三七拍子!」、そして太鼓に合せて、男の子たちがいっちょまえにポーズを決めてカッコイイったら。保育園の先生たちはこんなことまで仕込んだのか…。驚きの連続である。そして後でユキちゃんに聞いたところによると、やはり彼女は男の子の親らしく、このかっこいい応援合戦の様子を見てウルッと来てしまったそうだ。
この応援合戦中にタイミングよく弟のティエティエも到着。20万円もする最新のSONYの一眼レフカメラを構えて、トウットゥの勇姿を撮ることができるように構えていてくれた。
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<親子競技、そして>
そしてとうとう本日の私たち家族にとってのメインイベント。1歳児の親子競技だ。スタート位置にゼッケンをつけた親と1歳児が集められ、預けてから始めての親子対面。競技については事前にクラスの掲示板に張り出しになっていたので、要項はわかっていた。親子を新幹線に見立て、子が先行して進む。最初に段差のある陸橋と通り、つぎにフラフープのトンネルを抜けて、踏み切り前で待って、ゴールというもの。問題はトゥットゥがその通りに行うかどうかだった。
先行親子の競技が予定通りに進み、とうとうトゥットゥの番がきた。「ヨーイ、ドン」を合図にトゥットゥはまっすぐ進んだ。わき道にそれずに陸橋の段差を登り、まっすぐ橋を渡った。マットを見るとすぐに四つんばいになってフラフープのトンネルをくぐった。そしてフミキリの前でじっと待った。私の心配は杞憂で終わったのか。よかった。ゴールをすると真っ先に「抱っこして」と言うあたりが、まだまだ1歳7ヶ月のちびっこなんだよなと可愛く思った。
全員の競技が終わると、正門前に集められて親子全員で記念撮影。先輩園児たちの競技はまだまだ続くが、1歳児はお土産をもらって解散となった。サチ母もいることなので、弟夫婦も合せて、この後お茶でもしようと我が家に集まることにした。ケーキを買って帰って雑談。ブログで知るだけのターくんの活発な摺り這いや掴まり立ちを見ることができた。やっぱり小さいって可愛いなあと丁度去年あたりのトゥットゥを思い出した。去年のトゥットゥは体格はいいものの、今に比べて肩も狭く、頼りない感じだった。
4月に入園した時はまだ歩くこともできず、ハイハイのみで動きに赤ちゃん臭さが残っていたが、もう赤ちゃんではない。成長を大きく感じることができた運動会だった。
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トゥットゥへの気付き
様子
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運動会の後ターくんが遊びにきて、絵本を差し出すなどいっちょまえにお姉さんらしいことをしていた。親をバシバシ叩くみたいに乱暴にしないのでえらいと思う。やはり小さいもの、弱いものは本能でわかっているのだろうな。
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体調
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鼻水がまだ出ている。
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食事
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夕食はジェイジェイ特製お好み焼き。ここのところ偏食気味だったが、ものすごい勢いで食べていた。ジェイジェイは感激していた。こうやってお父さんを持ち上げて気持ちよくなってもらったところで、平日からもっと料理をしてもらいたいものである(母親の野望)。
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