2015年3月14日土曜日

保育園の役員

保育園には父母会なるものがある。次年度の役員決めのために掲示板に「立候補者は名前を書くように」と紙が張り出された。立候補は1クラス3名から4名。立候補の条件は「以前役員をやったことのない方で」と書いてある。その条件で行くと、子どもが在園中に一度はやらなければならないということになる。さらに文面を読むと「決まらない場合はくじ引き」と書いてあった。

会社の先輩ママさんからも保育園の父母会の役員は子どものクラスが小さければ小さいほうが楽と言われていた。この時は具体的にどう楽なのかはわからなかったのだが、上のクラスに行けば行くほど親と保育園が絡む行事が増え、その取りまとめをしなければならないため面倒ということらしい。今の職場と仕事のペースであれば保育園の役員はできるだろうと考えた。

しかし立候補して書く勇気はなかった。というのも、何かの記事で「子どもができたって父母会トンズラしたお母さんがいて…」と非難対象に上げられていたので、それは嫌だなと躊躇したのだ。私は今年こそは二人目を考えているのである。悪阻、出産、育児と考えると役員など無理そうだが、必ず今年実現するとも限らないので、そう神経質に考える必要もないのだろう。まあ立候補者なんていないだろうから抽選になるんだろうな、当たったら仕方ないな、くらいに構えていた。

ところが。その予想は外れた。我が1歳児クラスからは早々に2名が立候補欄に名前が書かかれた。しかも一度も送りでも迎えでも一緒になったことがないお母さんたちだ。何者なんだ、この人たちは!? 私も名前を書こうか。どうしようか。そうやって悩んでいるうち、2名だけ名前が書かれたまま、時間は過ぎ去った。

立候補期限が明日へと迫った3月5日。保育園に迎えに行き、トゥットゥをピックアップする前に、座り込んでトゥットゥの汚れ物をカバンに入れて荷物整理していると、お迎えに来ていたAちゃんお母さんから声をかけられた。

「父母会の役員、どうですか?」
「へ!?」

なんとリクルートであった。2014年4月に保育園デビューしたものの、我が1歳児クラスの役員が誰かもよく知らなかったのだが、Aちゃんのお母さんがどうやら役員さんだったようである。するともう一人、Bくんのお母さんもお迎えでやってきた。

「絶対子どもが小さい頃のほうが楽だから! 今やっときなよ。」
「お二人、役員だったんですか?」
「そうよ。毎回出席しなくてもいいしさ。仕事も楽だったよ。役員やりなよ。」

下町らしいトークでBくんのお母さんは勧めてきた。そうしているとCくんのお母さんもお迎えでやってきた。

「ねぇ、○○さん。役員そんなに大変じゃないよね。」
「なになに? 父母会の役員の話? うん、イベントのお手伝いくらいかなあ。」

ここに3人、うちのクラスの役員がそろい踏みということになった。3人にこにこして座っている私の顔を覗き込んでいる。正直に二人目が欲しくてもしかすると迷惑をかけるかもしれないことを伝えた。それを言った後に、ぶっちゃけすぎて引くわ、と自分で引いて反省してしまった。

ところがさすが下町のお母さんたちというか、

「ああ、いいの、いいの。そんなケースいっぱいあるから。」

と一蹴。イベントのお手伝いくらいって、イベントが何回あって、事前準備と当日にどれくらい拘束されて…といろいろ聞きたいことはあったのだが、3人の勢いに押され、結局夫と相談してきますと言った。





なぜ私に熱心に勧めたのかなんとなくわかる。役員立候補がなかった場合のくじ引き自体が手間である。そしてくじ引きがいくらルールでも、気が乗らない人に強引に「くじ引きで決まりましたので」と通達するのは、バツが悪いよなと思った。それならば「私やります。」と言った人に気持ちよくやってもらったほうがいい。だからそう言いそうな人をずっと探していたのかもしれない。私の「役員をやってもいいかもしれない」という気持ちを見透かされたのかもしれない。

しかしなにより一番の理由は、トゥットゥなのではないかと思う。トゥットゥが12月頃から会話ができるようになり、私が迎えに来ると一緒になったお母さんたちを指して

「○○くんのお母さん」
「○○ちゃんママ」

と言うようになった。これには驚きであった。どうも保育園の先生がお迎えにきたお母さんを指して呼ぶのを真似て覚えたようだった。トゥットゥは覚えた言葉は使いたがる癖があるので、知っているお母さんを見つけると名指し確認をした。私はそれと併せてそのお母さんたちが子どもの荷物の入れ替えをする場面をこっそり見て、そこに貼ってあるシールの名前をつき合わせてお母さんたちを認識していった。名前があるとないでは覚え方が違うのである。

そうして私は朝や夕方に出会うお母さんや子どもたちに名前入りで挨拶ができるようになった。そうして声をかけるようになって少し立ち話するようになったのが、AちゃんやBくんやCくんのお母さんなのであった。この人なら声かけられるわ、そう思わすに十分な距離になっていた。

次の日こっそり立候補者のところに名前を書いた。





そして今日役員引き継ぎがあった。会場となる教室に足を踏み入れるとすでに来ているお母さんたちと連れてきた子ども達でにぎわっていた。そこには何か妙な威圧感というか。お母さんたちの醸し出す貫禄というのか。確かに旧役員さんは初めて役員を体験する私からすると立派な先輩である。きっとその雰囲気に私は圧倒されたのだろうと思った。

早速旧会長の仕切りで会がスタートした。新年度役員決めのため、新クラスごとに代表者が出てじゃんけんをして仕事班を選ぶということになった。しかしこの時点で何の仕事があって、どれを選べばいいのかわからなかった。事前に配られた資料は年間スケジュールと各班の仕事が事細かに書いてあるのだが、逆に概要は細かすぎてわかりにくい。これを読み解けというのか。そんな空気が一体に広がった。ざわざわざわざわ。

「何の仕事か説明してもらわないと選ぶことなんてできません。」

抱っこ紐で0歳児を抱いたあるお母さんが大声で言った。うわあ、勇気ある。

「あ、はい、わかりました。では、ええっと。」

会長はしどろもどろになりながら、前年度に一緒に仕事をした各班のお母さんを大勢の中から目で探し、お願いしますと頭を下げた。説明はスムーズに終わった。

さてじゃんけんのために新クラスの代表者を決めなければならないが、私は他の立候補者2名のお母さんの顔を知らない。

「新○○(2歳児)クラスの人ー!」

私がそうやって声を上げていると、あの皆の前で説明してくれと大声で言ってくれたお母さんが声をかけてきた。彼女がDちゃんお母さん。そして私の後ろにもう一人、こちらもはじめましてのEちゃんお母さんがいた。お互いに保育園で会ったことがないねと言うと、私は8時過ぎ17時半迎え、Dちゃんお母さんは育休中で9時に送り16時に迎え。Eちゃんお母さんはシフト勤務のため基本旦那様が送り迎え。どおりで会うはずがないわけだ。

その場の雰囲気で私がじゃんけんをすることになり、そして負けてPCが使えないと厄介な班となる。私は会社の情報システム部なのでPC操作はお手のものだが、二人のお母さんはそうでもないらしい。

「PC以外はなんでもするからー。ほんとゴメンね。」

と二人のお母さんはわはははと笑った。私に一番負荷がかかるのは目に見えていたが、二人を見ていると心強いと思った。なんだろうな、これ・・・と思ったら、二人ともすでにお子さんにはお兄ちゃん、お姉ちゃんがいるのだった。すでに役員も上の子で体験済み。小学生PTAもお手の物。二人とも役員の仕事を知っているからこそ立候補できたのだろう。そしてDちゃんお母さんなど上は小学生の三姉妹のお母さん。どおりであの場ですぱっと言えるわけだ。

ああそうか、ここのヒエラルキーは上の子どもがいるだけ偉いのだ。私が教室に入るなり圧倒された雰囲気はその経験値の余裕から出るものだったのか。納得でさる。

仕事の世界では成果主義、一定の期間で結果をどれだけ残すかが評価される。この一定期間というのが曲者で、どうしても目先の成果にこだわりがちになってしまう。効率的に仕事をし、早く成果を出したものが会社では評価されるのだ。しかし子育てといった結果がはるか先に出る、結果といっても人格や優しさなど数字ではわかりにくいものは、成果主義は採用されないだろう。そうすると何が偉いかというと、もうとにかく経験者(先輩)となる。実に中学生以来だ。(高校は受験勉強まっしぐらだったので、そんなことに構っている暇もなく。) 

ああ、ここに世の中の男達を放り込みたい。どんなに自分たちが序列を争っている世界と違うと目を白黒させることだろう。そんなことを想像して思わず笑ってしまった。

父母の会の世界、一番下っ端としてがんばらせていただきやす。





トゥットゥへの気付き
様子
春物のスカートを初めておろして着たら、その柄を見て「ゴミ、ゴミ」と言って取ろうとした。失敬な! 確かにフリーハンドの筆でかかれたような白い模様は見ようによってはゴミに見える。しかしそれでは私の気が済まないので「これは雲のあかちゃんです。」と嘘を言った。
体調
便秘は相変わらず(マッサージと下剤)。乾燥肌でかゆがるのでワセリン大量投入。
食事
ご飯を出すと「しらすくだしゃーい」と条件反射的に言うようになった。わかめをまぜようとすると「あっあっ(それじゃないのよ)、しらす、しらす!」と慌てるので面白い。「わかめも入れたほうが美味しいから」と説得している。