2017年3月18日土曜日

旅行はスイッチを押す

ジェイジェイが13、14日と、急に二日ほど休みが取れることになった。彼は旅行に行こうと言った。私はトゥットゥのためにディズニーランドを提案したが、そんな近場では休みを取った意味がないと言った。予算内だったら私の好きなところに行っていいと言った。彼はそれ以上何も言わなかったが、どうやらこの旅行は、ゴッシュを産んでこれから職場復帰する、私の慰労と激励のようだった。彼なりの優しさだと理解した。

行きたいところはたくさんあった。吉野、熊野、出羽三山、白山。山ばかり…。ただ4歳のトゥットゥと0歳のゴッシュが一緒なのだ。行けるわけがない。そうだ、京都に行こう。去年オープンしたばかりの京都鉄道博物館。すぐにトゥットゥの喜ぶ顔が思い浮かんだ。こんなところからも、やれやれ、気ままに京都に行っていた独り身ではないのだな、と思った。

私は子供連れで無理のない旅行の日程を考え、ホテルと新幹線を手配した。自分が慰労されるつもりの旅行は、行く前から計画立てでクタクタになった。そしていつの間にかサチ母もデコ母も誘っての大旅行になった。トゥットゥは二人のおばあちゃんと一緒で喜んだ。1日目は三十三間堂と八坂神社。二日目は鉄博と東寺。三日目は西本願寺。写真に残る彼女の毎日の笑顔がそれを物語っていた。

トゥットゥに何が一番楽しかったと尋ねると「テッパクの二階のプラレール」と言った。それ、東京のどこかの子供広場のようなところでも遊べるでしょうに…。もっと京都ならではのものをと思ったが、それは親のエゴだろう。自分では組み立てられないプラレールの線路(例えば高架パーツで3階建の線路に組み立てられている)を自由に壊したり、付け足したりして電車を走らせるのは滅多にできることではないものね。

ゴッシュはもちろん0歳児なので特に旅行の感想が聞けるわけではない。しかし宿泊先での二人の祖母の大特訓がハイライトだったのではないか。というのも、2月末の9・10ヶ月検診でおすわりが遅いだの、足をクロスするだの、パラシュート反射が出ないだの指摘され、「脳性麻痺」の可能性が微かに有ることがわかり、事前に電話でそれぞれにその話をしていたのだ。京都で二人が揃うと「そんなはずはない」と大特訓が始まった。おかげでお座りはクリア。また腕の力で前に進もうとする、積極的に四つん這いになるなどした。家ではただののんびり屋さんだけだったのね。

私の旅行の印象に残った所も意外なところだった。帰りのホテルのロビーで音楽が流れていた。トゥットゥは私に尋ねた。

「この音楽は何?」

トランペットが哀愁を帯びて響いていた。

「ジャズだよ。」
「素敵だね。」
「あんた、渋いね。」

私はジャズはちっともわからないのでそれ以上の会話にはならなかった。

家に帰ってくるなりトゥットゥは言った。

「ほら、ホテルの音楽、素敵な音楽、なんて言うんだっけ?」
「ジャズ。」
「うちにはジャズのCDはないの?」

そんなにジャズが気に入ったのか? 私は一枚だけあったマイルス・デイビスのCDを引っ張り出し、音楽をかけた。

「そうこれこれ。」

なぜ4歳児がジャズに惹かれるのか。もしや上原ひろみのような才能があるというのか。世の親バカのように一瞬ドキドキしてしまった。つらつら思い出すに、私はトゥットゥにピアノに興味を持って欲しくて、デタラメに、でも気持ち良さそうに家の電子ピアノを弾く彼女に「ジャズみたいだね。」と言ったことがあった。彼女の中でいろんなことが繋がったのだろう。

旅はいろんなスイッチを押してくれるのである。さて私のスイッチはなんだったのか。今はわからないが、振り返ってこの旅行だったと思える日がくるだろうか。ジェイジェイ、旅行をありがとう。