トゥットゥが4歳児クラス(年中組)に進級した。3歳児クラス(年少組)に二人いた主担任のうち、U先生と言う男性保育士が持ち上がった。そしてもう一人の担任が2歳児クラスでお世話になったK先生と言う男性保育士になった。なんと主担任はダブル男性保育士! 副担任で非常勤の1名の女性の先生、パートで2名の女性の先生。25名のクラス児童に対し最大5名体制だ。大勢の人にお世話をしてもらえてありがたいと思った。
少し前、Twitterで男性保育士にオムツ替えや着替えをさせて欲しくないと言う親の話題で持ちきりだったが、彼女らは主担任が男性二人というこの状況をどう思うのだろう。私はと言うと男性保育士についてはなんら心配していない。なぜなら保育園の構造上、密室や死角にはなりにくいことは知っており、また一日のスケジュールは基本的に盛りだくさんでてんやわんや、二人きりになることはない。仮にそのような機会を作ろうとしても複数の保育士の目がある。システムとしてありえない。そう信じている。何より二人の男性保育士は保育のプロだった。トゥットゥを丸三年預けて、この園を信頼していた。
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新学期初日、トゥットゥに二人の男の先生はどうかと聞くと、あまり意味もなさそうに楽しいとだけ答えた。U先生は去年の担任だし、K先生も久しぶりとはいえ、顔見知りであり今更なのだろうと思った。
異変は早速新学期二日目に起こった。朝、教室の外に迎えに出てきたK先生を前に、トゥットゥはニューバランスのシックなバーガンディ色の靴を履き替えながら言った。
「靴が破れているから新しいの買って欲しいんだけど。」
K先生を見て、靴を見た。右側の靴の踵部分が少し擦り切れていた。明らかにK先生を意識した発言だった。
「女の子はピンクが可愛いと思うの。ピンクの靴を買って欲しいの。」
珍しく意思を伝えたトゥットゥに気圧さた。私は彼女の気持ちに応えるべく、家に帰って早速Amazonでピンクの靴を取り寄せた。翌日届いた靴を見たトゥットゥは満足げだった。すぐにその靴を履いていくと言い、普段はしない服のコーディネートを始めた。そして残念そうに言った。
「女の子はスカートがいいと思うの。でもトゥットゥにはスカートがない。」
それには理由があった。園長先生から言われていたのだ。幼児を好む変質者対策として女の子はなるべくスカートを履かせないこと。スカートを履かせたとしても下にレギンスを履かせること。今まで(年中組より前)でスカートとレギンスの着替えが一人でできるかといえばNoである。スカートとズボンが合体したボトムも売ってはいたが、素材が悪く履きにくそうでデザインもイマイチ、購入に至らなかった。したがってトゥットゥのタンスにはズボンばかりだったのである。
「上のお洋服ももっとかわいいのがあるといいんだけど。」
長袖Tシャツもアニエスベーの無地の白、無地の黒。ギャップのグレーのロゴ、ミニーマウスのシルエット。オールドネイビーの白、紺のポイントレース。無印良品のボーダーなど。私やサチ母が好んで買ってくるシックなものばかりだった。サブカル系の大人から見ると趣味がいいと思うんですけどね…。
「トゥットゥもYちゃんのような服が着たい!」
Yちゃんとはクラスで女子力が一番高い女の子だった。いつもスカートを履いていた。彼女のお母さんが下町には珍しく雑誌VERYから抜け出たような人だった。今までほとんどYちゃんの話などでなかったのにどうして今更。不思議に思って尋ねると、どうやら新学期は同じチーム(一緒に工作を行ったり、給食を食べたりする)になったらしい。ははあ、仲良くしたいのか。つまり同化したいわけね。
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日曜日。トゥットゥと西松屋に行った。私はトゥットゥに長袖のTシャツ二枚、スカートを一枚選んでいいと言った。それくらいであれば西松屋で3000円を超えることはない。大船に乗ったつもりで好きなものを選べと伝えた。私がサイズが合う服を片っ端から取ってきて「これは?」と尋ね、彼女の目がキラリと光ったり、思わず手が伸びたものを選抜して籠に入れた。この時点で8着まで絞られた。そして一枚ずつゆっくり見せた。そして三巡して彼女が選んだもの。
「ハート可愛い!」淡いピンク地のハートをちりばめた長袖Tシャツ
「花柄いいじゃん!」青地にマーガレット柄の短いキュロットスカート
「Yちゃんみたい!」ラベンダー地にポシェットとロゴの長袖Tシャツ
内田樹さんの「困難な結婚」の話。内田先生は若い頃「性的自己同一性というのは社会的に形成されるもので、生得的なものではない」という言説を信じて、娘に性差偏りのない服などを与えていたら、彼女が6歳になった頃「お父さん、自分の趣味でわたしに『ああいう服』買うのやめてくれる?」と言われたという。結論としては「性的傾向は生得的なものである」と体験的に感じているというものだった。
トゥットゥはこれまでは青が好きで、電車が好きで、恐竜が好きで、宇宙が好きで、男の子傾向が強めだった。私もサチ母もボーイッシュな格好が好きで、トゥットゥの服の趣味も、きっと親の趣味を押し付けられた結果、内田先生の言うところの社会的に形成されるのではないかとぼんやり思っていた。
しかし彼女は常々、ピンクが可愛い、ハートが可愛い、ミニーちゃんが可愛いとは口に出してはいた。ただ身につけようとする欲求はなかった。ところがそれを具現化した存在・Yちゃんが現れた。自分が女の子であると意識させてくれる存在・K先生が現れた。そして4歳にして意思を伝える言葉を持った。トゥットゥの中に「女の子」は生来からセットされていたのである。
この一年、トゥットゥの中にどのような女の子が育つのか、親の私も大変楽しみである。