宿泊したのは猿ヶ京温泉の旅館「千の谷」。ここのオプションプランであるホタル観賞は19時出発(21時半戻り)であるため、小さい子供がいる私たちは風呂と食事を済ませておく必要があった。旅館に到着次第、ジェイジェイの計画どおり、家族貸し切り露天風呂に入った。ゴッシュのようにおむつのとれない小さい子供がいるのでうれしい配慮だ。しかし思いのほか湯船が熱く、私たちも水を入れないと入れそうもない。子供たちはなおさらだ。おそらく外気が30℃以上あるので、42℃くらいでも熱いのだろう。これにはまいった。熱い熱いといいながらシャワーの水を入れて家族で入った風呂も振り返るといい思い出だ。
夕食後、マイクロバスで「月夜野ホタルの里」に向かった。実は私もホタルを見るのは始めてで、ホタル狩りと言えば浴衣にうちわのイメージだったため、せめて雰囲気を出そうと思い、子供たちには甚平を着せた。バスの中で2KMにわたる遊歩道の案内図を受け取り、道の予習をする。数組の家族がちらほらと清流沿いの遊歩道を歩き、清流のロープ越しに静かに子供たちと歓声を上げる様子を想像したが、それは間違っていた。
遊歩道入り口にマイクロバスを乗り付けて外に降りると、暗闇には思った以上の人でごったがえしていた。ホタルが光るたびに大歓声があがる。まるで花火だ。私たちのすぐ後には大手旅行社のバスが乗り付けて、団体で押し寄せる様子も見たし、観賞していると別の旅行会社の添乗員が大声を上げて、あっと言う間に団体客が帰っていく様子も見た。今日は土曜日、仕方あるまい。これが日本の観光地である。
そしてもう一点予想外のことがあった。遊歩道がワイルドなのだ。私は山口県出身なので、ホタルと言えば山口市の一の坂川のイメージでいたのだが、あれは大内氏が京都の鴨川に見立てた雅な川なので、あれは人工的な一種のファンタジーなのだとガツンとやられた気分だった。遊歩道はもちろんむき出しの土の道で、思った以上に山深く、道はアップダウンが大きかった。そして川が完全に藪の中なのであった。そもそもジェイジェイが自然のホタルを見に行くと言ったではないか。初心に戻れ!自分。しかし山道好きな私としてはそうとわかると俄然燃えた。
水辺が遠いせいでホタルが遠い。だからこそ遠くでゆらりと光るホタルを見ると、
「あそこ、あそこ!!!」
と指を指すし、近くに寄ってきてくれたときは、ジェイジェイやトゥットゥと一緒に歓声を上げた。トゥットゥは
「今よ。写真撮って!」
と何度も叫ぶ。シャッターを押してもろくなものが撮れやしない。すると地元の「ホタルを守る会」のおじさんから
「F値1くらいにしてなー!」
と声がかかる。無理だって。コンデジ、オートでしか撮ったことないし、三脚ないし。
ホタルの光を鑑賞するために無駄な明かりは一切灯っておらず、真っ暗なのかと思いきや、道が思った以上に明るい。人のシルエットのみならず表情まで見える。それもそのはず、満月一日前なのである。オレンジ色の月が煌々と照り、ホタルの緑色の光も若干控え目だったのかもしれないが、美しい対比だった。ジェイジェイは
「こんな日は戦い日和だよ。」
なんて言って、戦国時代の月夜の夜戦について思いを馳せていた。私もその会話に乗った。
ゴッシュは抱っこ紐の中で寝るかと思いきや、汗だくになってずっと目をあけてきょろきょろしていたので、彼なりに幻想的な夜を楽しんでいたのだろう。大きくなって(すでに10Kgを超える)滅多にしなくなった抱っこを楽しんでいたのかもしれないが。