実はこの参観日。6月から候補日が5日に渡りパラパラと設定されていて、5人ずつくらいの保護者を募っていた。なぜ連続した期間にやらないのだろうと不思議に思っていたのだが、その日はすべて「体操教室」の日だとわかった。朝9時に行くと、本日参観の5人の保護者の自己紹介も足早に、早速「今日は体操教室です。みんな準備して!ホールに行きます。」と先生に言われた。
体操教室には、保育園のクラスの先生とは違う先生がいた。運動会が近いので、今回は走る練習をするという。園児たちの関心の引き方、誘導の仕方が実にうまい。例えば、顎を引いた姿勢と顎を上げ切った姿勢「どっちがカッコいい?」と実演して見せる。勢い余って壁に激突しないように「壁にはやさしくタッチするのがルールだよ!」と言う。チーム分けしてお行儀を競わせ、連帯責任を負わせる。実にうまくやるもんだと関心した。
しかしこうした集団行動の中では、やはりルールを守れない子も出てくるわけで、走って興奮した状態が冷めずにさらに走り出す子や、子供同士でじゃれ合っているうちに走るという目的を忘れる子など、果ては喧嘩を始める子など、実に様々。その度に補助に回っていた担任の先生たちが、手を引いて列に戻したり、注意をしたり。その様子はまるで野生のライオンの子供たちがコロニー内でじゃれて遊んでいるようだった。
トゥットゥも思った以上にスキンシップを図る子であることがわかった。男の子、女の子構わず、すぐに手をつないだり、抱き着いたり。それはあくまでもやさしく、そっと行われるもので、親愛の情を示しているのだろう。相手の中には喜んで身を寄せる子もいれば、今気分じゃないとすっと手で押しのける子もいる。露骨に嫌がる子だっている。その様子はしっかりライオンの子供たちの風景を作り出しているのだった。
そんな中、突然、目を疑う光景が私の目に飛び込んできた。今、トゥットゥが向こうの列で男の子を殴っていなかったか!?
私は焦る気持ちを押さえて観察した。しかめっ面のトゥットゥが相手の男の子の胸を拳固で殴った。男の子が「痛くないもーん」と言った。さらに悔しそうな顔をしてトゥットゥが同じように殴った。さらに男の子が「痛くないもーん」と言った。回が増すごとにトゥットゥの力が強くなっていく。男の子がその力で後ろによろめく。この繰り返しを5回見た。観察どころではない。嗚呼、先生、早く気づいて。うちの娘を止めて! しかし先生は他に秩序を乱す子にかかりきりで、トゥットゥの暴力には一向に気づかなかった。
そうこうしているとトゥットゥの走る番が回ってきて、この小競り合いは終わった。走り終えるとトゥットゥはまた列に並び、その男の子も戻ってくると何事もないように談笑し始めた。子どもの喧嘩などこんなものなのか。
ホールでの体操教室を終えて、教室に戻る途中、トゥットゥに聞いた。なぜ殴ったのかと。
「だってトゥットゥのこと『足が遅い』ってバカにするんだよ。」
なるほど。ライオンの子だって理由はあるのだ。
バカにする相手が悪い。しかし暴力はいけない。その場は言葉で抗議する、そして本当に悔しければ、後日練習して足が速くなって見返すか、他の得意なことで見返すようにする。見返せたとしても、相手ができないからといって決してバカにしてはいけない、暴力は繰り返すから。黙って「やったー」という気持ちに浸ること。そんなアドバイスをした。
家庭では見せることのない子供同士の様子、我が子の知られざる一面を見ることができて大変有意義であった。