2017年10月14日土曜日

小さなマウンティング

山口の両親が東京に遊びにきた。生涯現役、なかなか休みのとれないロミ父が休みを取り、10月の連休を使ってのことだった。この度のホスト役は弟のティエティエであり、彼とターくんが羽田に両親を迎えに行くことをトゥットゥに伝えると、自分も行きたいと言い始めた。そこで便乗させてもらうことにした。トゥットゥは山口のおじいちゃん、おばあちゃんに会うようりも、まずター君と会えることを楽しみにし、駅で待ち合わせした時は、互いにはちきれんばかりの笑顔と抱擁でその喜びを伝え合った。

ところが。あれだけ喜び合った子供たちなのに、10分に1回小競り合いを起こしていた。そのほとんどがトゥットゥがお節介をやいて、ター君がへそを曲げるという構図だ。そのお節介には、よかれと思って優しさでやったものもあれば、ター君を出し抜いたり、からかおうとするちょかいが混じっていた。

例えば「危ないからこっちを歩いてあげるよ」と言ってター君の逆側に回る。ター君は余計なお世話なので拒否をする。それでもごり押しをする。他にも「あそこまでどっちが先に着くか競争しようよ」と遊びに誘う。当然体の大きいトゥットゥが勝つ。ター君は悔しくて泣く。自分が勝つのがわかっていて何度も誘う。他にも思い通りにならないからと愚図るター君をじっと見る、「見ないで!」と泣きながら言うター君をますますニヤニヤしながら見る。羽田空港に着くまでに、また着いて祖父母を迎えてから、どれくらい喧嘩しただろうか。

おばあちゃんが玩具を買ってあげたいと、孫たちを連れて上野に連れ出してくれた体育の日もそうだった。上野公園という広い空間な分、すぐにかけっこが始まる。この日はユキちゃんもヤマナちゃんもいたにも関わらずだ。目をかけてくれる大人がいるのに、トゥットゥはすぐにター君を相手にする。ちょいちょい起きる小競り合い。あれ、うちの子、こんなに意地悪だっけ?と思った。都度、ティエティエが機転を利かし「さあ、おじさんを倒せるかな?」と二人に声をかけた。すると二人はティエティエに向かっていく。仮想敵ができると人間は連帯するといういい例である。こうしてなんとか小競り合いは収まった。

確かに最近のトゥットゥは、ゴッシュとの絡みを見ていても、意地悪だなあと思うことがある。自分の所有物(わざわざ買ってもらったもの)をゴッシュが触ろうものなら血相を変えて奪い取ることが多い。「使っていないなら貸してあげなさい」と言うと、「だって壊したり、よだれ付けるんだもん!」と応戦してくる。そのくせゴッシュが欲しがるものを彼の目の前にわざとちらつかせて泣かせる。

またター君との絡み。小さい子のお世話について「お姉さんぶりたいのね」と言えばほほえましいが、行き過ぎるのは、自分の都合よく事を進めたい(管理下に置きたい)ことの証なのではないか。一緒に遊ぶふりをして勝てる戦いばかりしかけるのもそういうことだ。

ああ、そうか。子供は遊びの中でポジション取りをするのか。いわゆるマウンティングというやつだ。社会性を持つ生物は仕方がないと思っていたが、こうも露骨に出てくるものなのか。ター君やゴッシュとの絡み以外にも思い当たることがあった。



10月のある日、保育園に迎えに行くとトゥットゥがべそをかいていた。どうしたのかと聞くと担任の男性保育士が説明してくれた。

「同じグループの子たちに仲間外れにされたんです。そんな大層な理由じゃないんです。子供は気まぐれですから。すぐに僕がその場をとりなしたので、仲間には入れてもらえたのですが、トゥットゥちゃんはまだ悲しくって涙が出るんだよね。」

帰り道歩きながらなにが理由で仲間外れにされたのかトゥットゥに聞いた。

「五歳の子しか一緒に遊べないって。最初〇〇君が言い始めて、□君も△ちゃんも『トゥットゥちゃんは5歳じゃないからダメー』って言った。」

なんだ。そんな理由か! あのグループだと2月生まれのトゥットゥは確かに一人だけまだ4歳である。しかしそれを理由にされてもどうしようもないわけで、親としては「××だからダメ」「××ができないからダメ」など生まれ持った性格や容姿や能力にいちゃもん付けられているわけではないことに安心した。それに私もそれを言った子供たちは私もよく知っている。個々人で見れば、トゥットゥを嫌っているような子たちではないし、底意地が悪いということもない。保育園の先生の言うとおり気まぐれなのだろう。

ただ気まぐれでも場の雰囲気がある子の排除に向かうと、ノリで、もしくは雰囲気にのまれて、複数の子が乗っかってくる気味悪さもあった。おそらく子供たちは相対的にその場のポジション取りをしているのである。動物であるがゆえの性、訓練。目くじらを立てるほどでもないが、イジメの萌芽なのかもしれない。

「ひどいよねー。5歳じゃないってだけで仲間になれないなんて。でも多分明日になったらグループのみんなはそんなこと言ったなんて忘れていると思うよ。また仲良くなれるから安心して。同じこと言われたらお母さんに言って。解決方法を考えよう。」

とだけ私は伝えた。

翌日トゥットゥ本人もケロっとして保育園に行った。案の定その日は何もなかった。後日保育園でのダンゴ虫探しで、今度は他の子たちに「5歳でないからダメ」と仲間外れをされて悲しかったというが、彼女は別の場面ではまた仲良くできることを体験的に知っているせいか、別に問題ない、大丈夫だよと言った。

これからどんどん人間関係が一筋縄ではいかなくなる。一つだけ自分の体験的に言えることは「怯え」が悪い思考、そして実際に悪い関係を引き寄せるということだ。トゥットゥも一度仲間外れにされるとおそらく、次も仲間外れにされるかもしれないという「怯え」が生まれるだろう。昨今、ビジネス書でも「レジリエンス(回復力)」が大切だと説かれるが、嫌なことがあってもそれは一部で全てではない、別の場面では大丈夫というタフさを身に付けて、「怯え」を取り去ってほしい(=回復してほしい)。そしてその余裕を持った上で、他人の嫌がることはしないと自分を律することのできる子になってほしいと願う。