2018年10月28日日曜日

大パニック運動会

10月某日。快晴で晴れ渡るさわやかな土曜日に保育園の運動会が行われた。トゥットゥにとっては保育園最後の運動会だ。トゥットゥが1歳児クラスの時、一番最初に参加した運動会で年長さんの姿を見て、実は泣いてしまったのだった。こんなにも成長するのかと(その時のBlog)。それを思い出しながら、前日からすでに感慨深いものがあった。


ゴッシュは1歳児クラスにして2回目の運動会。0歳児クラス1回目はまだ歩けもせず、手を引いて冷や汗もので競技を行った記憶がある(その時のBlog)。しかし今回は特に心配はなかった。言葉は二語発語がようやくであるものの、こちらの話す言葉はほぼ通じていて意思の疎通はできる。もちろんしっかり歩ける。しかも新しい園長先生の方針か、今年は0歳児だけでなく1歳児も運動会の最初から最後まで親が傍に付き添うことになっているため、子どもたちが不安でそわそわすることもない。

大船に乗ったつもりだった。よってトゥットゥの最後の運動会に気持ちが集中できるはずだった。





いつもの登園はベビーカーに乗って私とトゥットゥの3人で出かけるのだが、この日はジェイジェイも含めた家族4人で、しかも歩いて向かうとあって(運動会の日はベビーカーや自転車の登園禁止)、ゴッシュは見るからに高揚していた。走っては止まってお父さんを呼ぶ。楽しそうだった。ジェイジェイも目を細めていた。

保育園に付くとすでに観客席は人で溢れ返っていた。私たちはこれから来るサチ母やエミィさん、ヤマナちゃん、ユキちゃんたちのために場所取りをした。そして改めて私とゴッシュと1歳児控えのエリアに行くべく、彼を抱っこしてその場を離れようとした。

「おとしゃん、おとうしゃーん!」

ここで一緒に楽しく保育園に向かったお父さんと離れる悲しみが炸裂。お父さんと別れるのがつらいのがよくわかった。では控えエリアにはジェイジェイと行ってもらおう。私は抱っこしたゴッシュをジェイジェイに引き渡し、私の代わりに控えエリアに行くように伝えた。すると今度は

「おかしゃん、おかあしゃーん!」

離れる私に手を伸ばす。…そうか。家族4人で来たのにバラバラになる意味がわからないのか。そうか。そもそも運動会の意味がわかっていないのか。そりゃそうだよな。

トゥットゥが1歳児クラスの時はどうだったか。運動会開始より30分も前に教室に普通の登園のフリをして預けに行ったよな。さすがに子どもたちもいつもの登園とは違うと気づいてソワソワしているのだが、まずは教室で先生たちが子供たちを落ち着かせていた。だから親がそっとその場からいなくなっても気にならなかったのだ。

ゴッシュはどうだ。園長先生が違うから方針が違う。0歳児も1歳児も保護者と一緒。そりゃ先生の負担は減る。保護者が子どもにまつわる面倒を一手に引き受ける。しかし大抵の子供は母親と一緒であれば落ち着くだろう、保育園側はそう読んだのだ。そしてゴッシュは大抵の子どもには入っていなかった。お父さんとお母さんとおねえちゃんと一緒でなければダメなのだった。

あちゃーと思っていたら、トゥットゥは何食わぬ顔でスタスタと最年長クラスの待つ控えエリアへと向かっていった。「頑張って!」と声をかける暇もなかった。ゴッシュだけが泣き叫んでいた。





運動会では年長組の子たちはいくつかの係に任命される。事前に係の担当が書かれたお知らせが配られて、トゥットゥが「開会式の歌の係」になっていることを知った。全員の前で大きな声で歌う係だ。他の子たちは、体操係、行進プラカード係、競技の誘導係など、のきなみ係を2つ、多いと4つ兼任していたが、彼女は一つだけだった。

私は係決めの様子を先生から聞いて少しだけ知っていた。係決め初日、トゥットゥは「応援団の太鼓をたたくのはどう?」と先生に勧められたらしいのだが、もじもじしていて首を縦にはふらなかったという。かといって他の係にも特段興味を示す風ではなかったらしい。係のイメージができていなかったんでしょうね、と先生には言われたが、この辺りはさすがに慎重派のトゥットゥだと思った。

私は係が一つだけの娘に正直に

「最後の運動会なので、トゥットゥの活躍をたくさん見たかった。たくさん係をやれば、たくさん活躍する姿が見られたのになあ。」

と残念に思う気持ちを伝えた。するとトゥットゥは期待に沿えなかったことを少し悪いと思うような表情をしながらこう言った。

「係をやろうかなと思ったら、仲良しのお友達同士で係が決まっていたの。だから誰もやってない係を選んだら歌の係になったの。」

歌が特別好きでもない、人前に立ちたいというわけでもない、結果だけ見れば流されたようにも見えるが、彼女なりに考えての結果だ。私は彼女の意思を尊重したいと思った。

「決まった係、がんばるんだよ」

とだけ伝えた。

そしてそれを見る機会が訪れた。

開会式、運動会の歌の場面になると、名前を呼ばれて「はいッ」と大きく返事をしたトゥットゥが前に出てきた。

腕の中には取れたてのカツオのように暴れるゴッシュがいた。隙あらば客席に向かう彼をこうでもしないと捕まえておけないからだった。私は彼女の歌声に耳を澄ました。聞けるはずもなかった。





1歳児控えの場ではゴッシュのクラスメイトたちは軒並みお父さん、お母さんと一緒でご機嫌で待っていた。ゴッシュは控えの場でも常に客席にお父さんを探しては戻ろうとしていたので、仕方なくYouTubeで新幹線動画で気持ちを逸らせた。その間は大人しくしてくれていた。新幹線に夢中なゴッシュを膝に乗せたまま、トゥットゥの応援合戦と徒競走をなんとか見ることができた。

競技がスタートする頃には、新幹線効果か、ずいぶん気持ちが落ち着いたようだった。競技は筒状のトンネルを親子でくぐり、マットで作った山を超えて、最後にフルーツをもぐというもの。スタートラインに並び、2番目に名前が呼ばれると二人でスタートした。順調にトンネルをくぐり、問題ないと思った時だった。

彼は思い出したのだ。客席にお父さんがいるということを。

ゴッシュはトンネルをくぐり終えると向きを変えてスタスタと客席に向かって当然かのごとく歩き始めた。私はあわてて抱っこしてマットの山に連れ戻した。彼は泣いた。なんとか手を引いてマットの山を登り、降りた。するとまた客席に向かおうとした。私は手を引いて連れ戻した。彼は泣いた。最後のフルーツの木までくると客席が遠くなり、お父さんの姿を見つけられなくなったようで、キョロキョロしながら泣いた。仕方なく私がフルーツをもいだ。

競技終了者の場所で待つ間も全員の競技が終わるまで泣き続けた。ようやく競技が終わり、そのままダンスパートに突入、音楽が鳴り始める。皆が立ち上がる。私はよかれと思ってゴッシュをジェイジェイの待つ客席のそばまで連れていった。そこで踊ろうと思ったのだ。

そして連れていくと、目の前にお父さん、そしてサチ母までいた。

「おばあちゃーん!」

ゴッシュ絶叫。こりゃダメだ。踊りどころではなかった。客席に向かう、お母さんに連れ戻される、わけわからない、地面に転がって泣く、意を決する、立ち上がる、客席に向かう…このループだ。

ようやくダンスの音楽が終わり、一歳児たちはお母さんに手を引かれ退場門に向かう。ゴッシュだけ私が抱っこして退場門に向かう。彼は言葉にならない声で叫んで猛抗議した。終わったからいいじゃないか! 私は強烈に顔をひっかかれた。苦笑いするしかなかった。ひどい競技となった。





ゴッシュを連れて客席に向かうと、お父さんとおばあちゃんとエミィちゃんが待っていた。ゴッシュはさっきの大暴れは嘘のようにニコニコでおばあちゃんの膝に収まった。私は放心していた。この後、トゥットゥの組体操、ジェイジェイとの親子競技、ソーラン節、リレーがあるというのに。

私は気持ちを切り替えてトゥットゥのよい写真を収めようと立ち回ったが、抜け殻のようだった。ソーラン節のトゥットゥの大きな掛け声でようやく我に返ったような感じになった。クラスの中で一番大きな声が出ていたのではないだろうか。こんなハキハキした子だったのか。ファインダー越しに彼女の凛々しい顔が写る。よくここまで大きくなって。心の底からトゥットゥの成長を祝福できた。

でもまだ通過点なんだよな…。来年は小学生。身が引き締まる思いがするのだった。